古書水の森(仙台市青葉区)インタビュー

お話:古書水の森/上野好之さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子
2017年10月25日インタビュー

これが今年最後のブックブックの記事になります。
(年明けにもう一本、予定しています)

今年最後にここで紹介するのは、今年五橋にできた「古書 水の森」です。

前野さんから「おもしろい人がいる」「おもしろい人がおもしろい店を出した」といつも聞かされていたので、かなりドキドキしていたのですが…実際に行ってみると、ぼくの想像を超えて、ヤバかったです。

詳しくは以下の取材内容を読んでいただきたいのですが、これでは全然足りません。ぜひ、お店に実際に行っていただきたいです。

20年くらい前に持っていたけど、以前付き合っていた人の家に置いてきてしまった、あの本が。15年くらい前に友だちと夜通し語り合うことになった、あの本が。必死で探してネットでやっと見つけて買った、あの本が。今年になって、どうしても見たくなって探していた、あの本が。「古書 水の森」にはあったんです。

取材中も視線が泳いでしまって、棚から棚へ旅していました。

金、作るぞー。
そして、もう一度「古書 水の森」に行くぞー、と心に誓ったのでした。
                            (武田こうじ)

      ◇    ◇    ◇

武田(以下:武):前野さんと出会ったのはいつくらいだったんですか?

上野(以下:上):そうですねー、話をしたりするようになったのは、ずいぶん後で、お店(火星の庭)には10年くらい前から行っていましたね。

前野(以下:前):じゃあ、ブックブックを始める前だ。

武:そんな前なんですね。その時は、お仕事はなにかしていたんですか?

上:その時はもう前の仕事をやめて、ブラブラしていた時ですね。だけど、年齢的には「なにか次の仕事しなきゃ」とは思っていましたね。

武:年齢的に、そろそろマズイなと(笑)。

上:そうですね(笑)。

武:でも、その漠然となにかしなきゃと思っていた中で、いつからこういうお店を出したいと思うようになったんですか?

上:いやぁ、あまり考えていなくてずっと、好きなことをしていたいなと思っていたんですよね…その延長上ですかね…。そんな風に考えていた時に、現実として年齢の問題が迫ってくるじゃないですか(笑)。なんかしなきゃいけないという感じで…。

前:その頃って30代になっていました?

上:そうですね。

前:やっぱり、20代とはちがう?

上:ですね。20代はなにも考えていなかったですね。なんか、このままいろんなことが続いていくような気がしているというか。

前:あー、なるほどね。

上:30過ぎて、マズイマズイってなって…。物件とか探し始めるんですね。でも、審査があって落ちるんですよね。そんなことがいくつかあって、それで前のお店の場所を見つけるんですね。でも、その時も「どうせ落ちるだろう」って思ってて…基本、ネガティブなので。

武・前:(笑)

上:どうせダメだろうって思っていたんですけど…そうしたら「いいよ」って審査が通って…そこからですよね。

武:今までブックブックで取材してきた方たちとは、上野さんはなんか違うんですよね…。今までの方は、本屋を出す、ブックカフェを出すという目標があって、動いている感じでしたが、上野さんはなんていうか…アーティストになりそうな感じというか…自分で写真を撮りたいとか、自分で表現したいみたいなのはなかったんですか?

上:ないっすねぇ。うーん、全然ないかもなぁ…自分で表現したいとかは…。

武:そうですか…。では、やはり、こうして今の在庫につながるように、作品を集めていくのが好きだったということですか。

上:そうすっね。

前:わたしは以前に聞いたことがあるんだけど…こういう世界にハマっていくきっかけが面白いんだよ。

武:そうなんですか?

上:前に仙台に住んでいた時なんですけど…ゴミがけっこう昔は落ちていたじゃないですか(笑)。

武・前:(笑)

上:いまはあまり落ちていないけど。

武:ゴミ捨て場ですよね?

上:そうです。本とかもけっこう落ちてて…マンションのゴミ捨て場に、別冊太陽の演劇特集が落ちてて…ほかにも落ちていたんですけど、それが一番気になって、土方巽と大野一雄が載ってて「なんだこれは」ってなって、そこから広がっていったんですね。

武:それ、いつくらいの時ですか?

上:19くらいですかね。

前:よく落としててくれたねー。

武:落としていたんじゃなくて、捨ててたんでしょう(笑)。

上:(笑)それまで、ふつうのポピュラーなものが好きだったんですが、そこから変わりましたね。

前:突然変わったんですね。

上:そうですねー、19歳って、サブカルエリートとしては遅いじゃないですか。

武・前:(笑)

前:インターネットはあった?

上:まだですね…いや、あったかな。でも使えないですよね、まだ。

前:その頃は、古本屋は行きました?

上:いや、行ってないですね。東京に行ってからですね。

前:そうかぁ…じゃあ、東京行ってから、本格的に、って感じだ。

上:ですね。

武:東京に行ったのは、お仕事で?

上:はい。

武:じゃあ、お金もあって、いろいろ手に入れることができるようになったんですね。それはどれくらいの期間ですか?

上:5~6年くらいかな。でも、その時は音楽も好きだったので、ひたすらCDとレコードを買っていましたね。

武:そうだったんですね。東京はいろいろ手に入りますもんね。

上:ですね。職場が新宿だったので、仕事終わって、ディスクユニオンに行って、買って…「また買ってしまった、お金を使い過ぎてしまった」ってなって…だけど、仕事のストレスでまたすぐに買いたくなっちゃうんですよね(笑)。

武・前:(笑)

武:それで…5年~6年東京にいて、帰ってきたんですね?

上:はい。でも、帰ってきてからも、よく東京には行っていたんですよね。東京に未練がある感じで。

前:東京にいたかったのかな?

上:いたいけど…いれないみたいな感じですかね。家賃とか考えると…。

前:再就職して、また暮らしていこうとは思わなかった?

上:そうですね…なにも考えていなかったのかな…好きな音楽聞いて、本を読んでいたかっただけというか…。

武:そうしていくうちに、さっき話していた「目に見えないプレッシャー」を感じて、なにかしなきゃと思っていくんですね。

上:そうですね。

前:その頃、ネットで販売を始めたんですよね?

上:はい。ネットの使い方がわかってきて、ちょっとやってみたりはしていましたね。

武:それはお店の名前がもうあって、やりとりをしていたんですか?

上:いや、まずはヤフーオークションですね。やってみたら、できるようになって。

武:それはまだ仕事ではない感じですね。

上:そうですね…。これも、なにも考えていない感じです(笑)。

武・前:(笑)

上:家に居づらいじゃないですか…なにもしていないので…なので、公務員の仕事をするって親の手前は言っていて、ほんの少し勉強していましたね。

武・前:(爆笑)

上:で、実際に試験を受けて(笑)。

武:受けたんだ(笑)。

上:それで、落ちて…。「ダメだったよ」って言って。

武・前:(笑)

前:こうしてお店を出すことは、親は理解してくれたんですか?

上:どうだろう…諦めたんじゃないですかね(笑)。

前:(武田に向かって)仕事の仕方っていうのを聞いた方がイイんじゃない?

武:なんで、ぼくを通して質問するんですか(笑)。

前:いやぁ(笑)、私はほとんど知っているからさ。なにも知らない武田さんの立場から聞いてみてほしいの。

武:だそうです(笑)。では、話を整理しながら聞きますが…私物のCDやレコードを売っている時期があって、本も集めていて、だけど、仕事だとは思っていなかったでしょうから、どの辺りからやりたいことが固まってきたのでしょう?

上:それがはっきりはないんですよね。

武:ネットで売ることなどで、手ごたえを感じていくみたいのもなかったんですか?

上:それがなかったんですよね。周りをみて…東京の店とか行き続けていたので…もっと、しっかりとした品揃えじゃないといけないと思っていました。やっぱ、ネガティブなんで「まだダメかな」「もっとかな」ってなっちゃうんですよね。

武:そうなんですね…。漠然と本屋を出したいって感じはあるけど…みたいな。

上:そうですね。それはありました。

武:行っているお店がすごいお店ばかりだったので、理想が高くなってしまったんですね。

上:そうですね。東京のお店行ったり、仙台だと火星の庭に行ったりしていて・…やりたいな…でも、後一歩踏み出せないな、みたいな感じでしたね。

武:そんな中、在庫は増えていきますよね。「水の森」という屋号をもって、販売を始めたのは、いつ頃ですか?

上:テナントを借りれてからですね。2014年の3月からですね。テナント借りて、そこから「古書水の森」ですね。

前:身近な人に相談したりしましたか?

上:店始める前に、地元の先輩で服屋やっている先輩がいたんですね。その先輩と久しぶりに会って、「なにしているんですか?」って聞いたら、「古着、売っているんだ」って教えてもらって、逆に「上野、なにしているの?」って聞かれて、「私もいろいろ、売りたいんですよ」って言って、一緒になんかやってみようかってなったんですね。

武:それはいつ頃なんですか?

上:それが震災の後ですね。で、その先輩ともめて。

武・前:(笑)

上:で、仲直りして。

武:よく仲直りできましたね。

上:まぁ、距離を置いただけでしたね。そんなにもめたわけじゃないですね、いま思うと。その先輩と一緒に最初に古書組合に入ったんですね。

武:そうだったんですね。

上:それで、またちょっともめて…その後、自分一人で入り直したんですね。

前:けっこう慎重なんだよね。

武:そうですよね。繊細だからですよね。

上:そうです(笑)。傷つくのが嫌なんです。

前:でも、すごく人には興味があるんですよね。

武:そういう意味でも、最初に言ったようにアーティスト側なのかなと思ったんですけどね。その繊細な感じが。

上:あぁ、たしかに。期待していると、めっちゃ傷つくじゃないですか。オープンの日、たくさん人が来るとか…まぁ、前野さんしか来なかったんですけど…まったく来ないと考えていると、そんなに傷つかないじゃないですか。

前:あのさぁ…でもさぁ…そう言うけど、ぜんぜん宣伝していないもん(笑)。

武:だから、それも傷つくからじゃない(笑)。

上:そうそう(笑)。

前:(笑)あぁ、そうかぁ!

武:すごいわかる!(笑)。

前:わかるんだぁ。ナイーブだねぇ(笑)。

武:でも、その傷つく、傷つかないで考えると、ぼくはネットの方が、面倒が多いような気がしちゃうんですけどね。

前:なんで?

武:良くも悪くも、常にやりとりをしていないといけない感じがあるというか。

前:あぁー、武田さんはSNSとかぜんぜんやっていないもんね。

上:えー、そうなんすか?

武:スマホも持っていない…。

上:携帯はあるんすか?

前:ない。自分からかけられない…ブックブックの携帯だけ(笑)。
(なぜか前野さんが答える)

上:えー(笑)。

武:だから、そういうやりとりがぜんぜんわからなくて、たまにそういうやりとりにふれるとすごい驚いちゃいますね。みんな、こんな風にやっているんだ、って。

前:フェイスブックのイイね!とか見ると、たしかにびっくりする時あるよね。

武:そう、みんな敵なんじゃないかって(笑)。仲良くしている風も嫌だし、やりあっているのも嫌だし。

上:そうですね。アピールばかりは嫌ですね。

前:あー、そうだよね。

武:人はそういう…自分をアピールするのが好きだったんでしょうね。

上:ですね…。

武:なので、ぼくからすると、その中でやってきた上野さんはすごいというか。

上:まぁ、いろいろ悩んできましたけどね。

前:なにが一番悩んだことですか?

上:そうですね…人と顔を合わせていないので、冷たいって思われるのが多かったですね。「ネットは金のやりとりだけだろ」みたいなディスは多かったですね。

前:あー、なるほどね。あと、ネットを下に見るような感じも以前はあったよね。

武:えー、どういうことですか?

上:知り合いに言うと…「ネットだけでやってんだぁ」みたいな感じで言われたりとか。

武:店もないくせに…みたいな感じですか。

上:そうです。

前:わたしも昔、お店のサイトでネット販売を始めただけで、「そういう方向に行くんだ」みたいな感じで言われたことあるよ。

武:今とはだいぶ違いますね。

上:ですね。音楽好きな人には音楽のことでディスられて、本好きには本のことでディスられるというのがありましたね。

武:そんな中、上野さんは理解し合える友だちはいたんですか?

上:そうですね…まぁ、一桁ですね。

武:そういう友だちは応援してくれる感じでしたか?

上:ですね…あまり、なにも言ってこないというか。友だちの友だちになると、なんか言ってくる感じですね。そういう期間はちょっと辛かったっすね。

武:孤軍奮闘してきたわけですね。

上:そうっすね。まぁ今も孤独ですけど…ネットでやってもリアクションはあまりないので…。

武:そうかぁ、そういうところは難しいところなんですね。

前:だから、お店をやってみたいというのもあったのかもしれませんね。

上:そうですね。人とちょっとは関わるというか。

武:そして、お店の中でいうと、こういう(店内を見渡して)写真集専門にやっていこうと思ったのはどういうことですか…いや、写真集専門ではないか(いろんなジャンルの本を見ながら)…。

上:そうですね。専門ではないですね。写真集が多いのは、写真集が好きで、たくさん集めていたからですね。

前:日本の写真集に対する人気というか、写真集のマーケットが世界的に大きいのもあるよね。これだけのものがあって、多くの人が欲しているという。

上:そうですね。

武:これだけのものを集めてこれたのは、やはりいろいろ勉強してきたわけですか?

上:そうっすね…でも、ぜんぜん詳しくはないですね。ただカッコイイから買いたい、って思う。

武:そういうデータ的なことは詳しくないけど…

上:そうです。ネガティブ感覚でここまで来たので…。

武:2014年に東勝山に店舗を構えるわけですが、その時は普通にお店として開けていたんですか?

上:一応、そのつもりではあったんですが、自分がいる時だけ開けている感じでしたね。

武:(前野さんに)そこにも行っていたの?

前:行ってない。

上:ないですね。2人しか来なかったんで。

前:(笑)

武:えっ、どれくらいやっていたんですか?

上:2年と10カ月ですね。

武:約3年で2人?

上:はい。

武:逆にその2人がすごい。

前:私の知っている人は何人か行ったんだよ。でも開いていなかったんだって。

上:えー、そうなんすか。

武:そういう意味では他にも行ったけど、やっていなかったって人はいるのかもしれませんね。

上:出会えたのは2人だけだった(笑)。

前:でね、あえて言うとね…上野さんは、ネット上にお店の名前が出てて、仙台だってわかるわけだから、自分のような人は電話して、いつやっているか聞いて、なんとか来るはずだと、そういう人を待っていたって言っていた。

上:そうですね。待っていましたね。

武:なんか、ナイーブなわりに、変なところは挑んできますね。

上・前:(笑)

武:ぼくが思うに、そういう人はいたと思いますよ。でも、そういう人は上野さんと同じような人で…ナイーブで電話できないタイプの人たちだと思うな。

前:それはどうなの?そうは思わない?

上:いや、「来い」しか思えないっすね(笑)。「3年間孤独だったんだよ」しか言えない。

武・前:(笑)

武:みんな、繊細ってことですね(笑)。でも、コミュニケーションは濃くなってしまうというか。

前:リサーチし過ぎなんだよ。実際に会う前に、いろいろ調べてくるから(笑)。

武:いやぁ、前野さんはほんと、そういうのないからね。ブックブックの初めの頃もぼくがなにか言うと「考え過ぎ!」ってよく言われたからなぁ。「そんなに考えていたら、なにもできない!」とかね(笑)。

上:わかりますね。

前:(笑)

武:同じ商売人でも、ほんとタイプのちがう2人なんでしょうね。

上:ですね。うわぁって思うくらい、前野さんはガァッていきますよね。止まらないですよね。おれは立ち止まりますからね。

前:(笑)

武:(笑)それでいて、2人ともすごい真剣に仕事しているわけだから、不思議だよね。

前:まぁ仕事ですので。

武:そして、ここに(五橋)来たのが今年(2017年)で、今は週一で開けているんですよね。

上:はい。土曜日に開けています。

武:かつての2人だった時よりは、来ていますか?

上:そうですね、その時よりは来てもらっていますが、まだまだですね。

前:ショップカードも作ったんだよね。

武:他の宣伝は?

上:ツイッターはやっていますね。

武:仙台にこういうものを欲している人はいますか?…あっ、そうか、送り先は仙台だけじゃないのか。

上:ですね。全国ですね。

前:仙台にはあまりいないかな?

上:今のところ、そんなにいないかもって感じですかね。

武:ここには宝ものがたくさんありますけどね。

上:ここにあるのは、ネットの販売には載せていないものが多いです。

武:えっ、そうなんですか?

上:そうです。

武:これは来てみるしかないですね。

前:そうだよね。

武:うーん、なんて言うんだろう…以前、上野さんがゴミ捨て場で見つけた本で人生が変わったように、ここに来て、ふれた本で人生が変わる人もいるかもしれませんよね…そう考えると、入り口というか、ちょっとの宣伝は必要かもしれませんね。

前:たしかに、手に取りやすいものがちょっと店頭とかにあるといいかもしれませんね。

上:一応、あるんですけどね。

前:けっして、敷居を上げているわけではないけど、品揃えに妥協はできないって感じですよね。

武:ここはこれでがんばってほしいというのもありますけどね…。<なんか、かわいいカフェができました。本も置いてあります>だけでは街は寂しいっていうか。

上:そうですよね。そういう意味では反応があるといいですね。

前:なかなかマニアックに趣味を深める人が減ったよね。

上:それはあるかもしれませんね。こういうことに時間をかけたりするのは面白いんですけどね。

武:さっき(取材を)始める前に聞こえてきたんですけど、イベントに出たりはしているんですか?

上:あー、この前、前野さんに誘われて、塩釜の美術館のイベントを手伝ったんですね。その後、夢メッセのイベントにも誘われて…はじめは一人で無理そうなので断ろうと思ったんですけど、手伝ってくれる人がいたので(笑)…出てみました。

前:石巻の『まちの本棚』に出張販売したり、メディアテーク一階の「カネイリ」さんにも委託販売したりしているよね。

上:はい。

武:そういうフットワークの良さはあるんですね。そして、前野さんが誘って、一緒に出たりとか、そういう関係もいいよね。

上:やっぱ、勉強になりますね。前野さんの一言、いいんですよね。買う一押しになるというか。ぼくは何もしない感じだったんですけど、一言ってあってもいいのかなって。

武:前野さん、すぐ横に来ますからね。

前:(笑)

上:そういうところですよね。

前:だけど、ほんと心からなんですよ。その人に対して、この本はおすすめですよって素直に思っているんです。

上:それはいいですよね。ぼくはそれができないから。

武:声のかけ方って大事ですよね。

前:店によってやり方はそれぞれだから、上野くんの接客も好きという人がいるからいいんですよ。

上:いや、それがすごい勉強になりました。ちょっと、やってみようかなと。みんなにやって失敗すると、傷つくので(笑)。ちょっとだけ。

     ◇    ◇    ◇

 上野さんは数年前のある日ひょっこり宮城県古書組合の交換市(古本屋が集まる競り市)に現れて、アート系写真集をぐわっと高値で競り落としました。話をすると、もうずっと前からネット古書店をやっていて、実店舗はなくお客様からの買取もないのに膨大な在庫を持ち、かなりの量の古本を売っていました。ネット販売をほとんどしていなかったわたしは、上野くんの話のすべてが新鮮で、「この人は新しいタイプの古本屋だなぁ」と思いました。その後上野さんは用事のついでによくお店に寄ってくれるようになり、話す機会が増えていきました。もともと倉庫兼事務所を郊外に持ちながら、街なかに好条件の物件を見つけて再オープンしたのが2017年2月。こうして22坪の店内に写真集、デザイン、絵本、アートの本が大量に、しかも珍しいものばかり並ぶ、専門古書店、古書水の森が登場。その後、宮城県古書籍商組合の副理事長にも就任。今回のお話は開店から半年強たった頃に伺ったものです。
ご本人はよく自分はネガティブだと言いますが、それだけ真面目で目標が高い人ということなのだと思います。今回の話は、そんなニュータイプの古書水の森がどうやって生まれたのか。具体的な数字や開業ノウハウというよりは、上野さんがお店を始めるまでの経緯、人となりみたいなものが伝わり、水の森のお店に対してはもちろん、古本屋への興味のきっかけになったらと思いました。
仙台は2017年に老舗古書店が3店続けて閉店するという大きな出来事がありました。古本屋のなかでは規模が大きい王道の古本屋ばかり。本好きの人達からは落胆の声を多く聞きました。このような状況でこれから古本屋がどうやってお店を続けていけるか、上野さんは様々な視点から考えている人だと思います。ご興味を持たれましたら、是非お店に行ってこの続きをご本人から聞いてください。
                                                      
                                       Book! Book! Sendai/前野久美子

おまけで、上野さんから。

以前の店舗(水の森にあった)の時によく聞いた音楽で
最近思い出してまた聞いた曲
 
定番の曲かもしれませんが、
よろしくお願いいたします。
 
Mike Westbrook  – Waltz 
Shira Small – The Line of Time and The Plane of Now
Guru Guru  –  Taoma
Jan Jones  –  Independent Woman
Legacy – Monday blues 
Skip Mahoney – Janice
Jaime Roos – Candombe del 31
TENNISCOATS Music Exists disc
Mkwaju Ensemble
Piry Reis

です。

古書 水の森
980-0022
宮城県仙台市青葉区五橋2丁目5-6 イワヌマビル102号室
営業時間=毎週土曜日 13:00〜19:00
 時々お休みする土曜日もあります。
 詳しくはTwitterをご覧ください。
Twitter/ @koshomizunomori


ここまでのインタビュー記事一覧 (2017年11月時点)

2016年度と2017年度、Book! Book! Sendai(以下B!B!S)は、
前年度まで続けてきたイベント運営の活動を一旦お休みして、
あらためて、
B!B!Sの最初のテーマであった「街で本と出会う」ことに目を向け、
今、街で起き始めていることを調べ、考え、
このB!B!Sのwebサイトを中心にみなさんに伝えていけたらと思います。

東日本大震災から数年が経過し、
宮城県のいろいろな場所で、本のあるスペースを作る動きが出てきています。
今年度のB!B!Sでは、それらのスペースを作った/作ろうとしている人々に
取材をさせていただき、発表していきます。

★第1回は、
宮城県南三陸町の「みなみさんりくブックス」(2016年7月31日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1483

お話:みなみさんりくブックス/「かもしか文庫」栗林美知子さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ

★第2回は、
宮城県石巻市の「石巻まちの本棚」(2016年9月3日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1537

お話:石巻まちの本棚/勝邦義さん、阿部史枝さん
聞き手:Book! Book! Sendai 前野久美子

★第3回は、
宮城県多賀城市の「絵本図書室ちいさいおうち」(2017年3月2日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1602

お話:絵本図書室ちいさいおうち/佐々木優美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子

★第4回は、
仙台市宮城野区小田原のカフェのある絵本屋『メアリーコリン』(2017年5月26日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1637

お話:メアリーコリン/阿部理美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子

★第5回は、
宮城県丸森町の『スローバブックス』(2017年9月21日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1664

お話:スローバブックス/佐藤浩昭さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子

     

     ☆それぞれの画像クリックで該当記事へ移動します!

     ☆この後、第6回・第7回も、アップ予定です!

     

      【LINK】

     みなみさんりくブックス
     http://minamisanrikubooks.tumblr.com

     石巻まちの本棚
     http://bookishinomaki.com

     絵本図書室ちいさいおうち
     http://ameblo.jp/tiisaiouti116/

     メアリーコリン
     http://www.marycolin.com

     スローバブックス
     http://slowba.exblog.jp


スローバブックス(宮城県丸森町)インタビュー

Book! Book! Sendaiが行っているインタビューシリーズ、第5弾をお届けします。
今回は、宮城県丸森町の『スローバブックス』。
インタビュー中にもあるように、開店が昨年(2016年)の9月21日。
丁度、オープン1周年の日に、記事アップとなりました!
ではどうぞ

お話:スローバブックス/佐藤浩昭さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子
2017年6月27日インタビュー


とある夏になりかけの日の午後。ぼくたちは車で、丸森に向かっていたのでした。丸森は仙台から車で2時間くらい…前野さんご夫妻と2時間、車で一緒なんて(ミルクも)、それだけでも遠足気分で楽しいのですが、目的地が丸森の『スローバブックス』ということで、さらに気分は盛り上がっていました。

丸森は自然が豊かで…空気が違うというか…ほんと、心が洗われる感じです。と同時に「ほんとにここでやっているの?」という疑問も出てくるくらいの自然の中に入っていったのでした。

そして、辿り着いた『スローバブックス』は、静かに、優雅に、しっかりと、佇んでいました。
そこで一緒に暮らしているジャムさん(ロバ)のように。


佐藤さんの生家である築90年の木造民家を改装した、スローバブックス

武・前:よろしくお願いします。

佐:よろしくお願いします。

武:ブックブックでは宮城に新しく出来た本と出会える場を取り上げてきたのですが…。

前:ずっと前から「丸森に行きますね」って言っていたんですけどね。佐藤さんが「ロバさんが来てから」って言ってたから(笑)。

佐:はい。ロバさん、来てくれてよかったです。

武:オープンはいつだったのですか?

佐:オープンは去年(2016年)の9月21日です。

武:間もなく、1年ですね。

佐:はい。いつにしようって考えた時に、宮沢賢治の命日にオープンしようとなったんです。

前:そうだったんですね。

武:どれくらいの準備期間があったのですか?

佐:前の仕事…消防署を退職したのが、2015年の3月でした。そこから伊達ルネッサンス塾というのに通って…その時、前野さんにもインタビューしましたよね…そうですね、準備はだいたい1年くらいですね。

武:消防署…消防士ということですか?

佐:まぁ、救命士ですね、はい。

武:全然今と関係ないお仕事のように思えますが、お仕事している時から、こうしたお店を出したいみたいなことは考えていたのですか?

佐:うーん、震災のちょっと前から、仕事に対して息詰まるというか、悩んでしまって…2015年くらいまで…。

武:震災の前からだとけっこう長いですよね…。

佐:はい。それで、仕事というのは自分を表現するものだということを考えたり、そんなことを書いてある本を読んだりして…そんなことを考えているうちに、両親がなくなったり、結婚という驚きの出来事があったりして、これは転機だろうと思って、2015年の3月31日に思い切って退職しました。

武:奥さんとの出会いが後押しをしてくれた?

佐:はい。

前:消防署には何年働いていたのですか?

佐:27年、勤めました。

前:えー!すごい。

佐:長いですかね?

前:長いですよぉ。

武:それだけの時間働いていて、なにを悩んでしまったのでしょう?…話していただける範囲でいいのですが。

佐:うーん…。仕事に対しての向上心が薄れてきてしまったんですね。人を救うための訓練とかもあるのですが、そうしたことにも疑問が出てきてしまったり…年齢的にも役職について、現場などでも全体を見なきゃいけなくなったりして…。

武:なるほど…いろいろ考えて、このままでいいのか、と。

佐:そうですね。

武:そんな中、奥さんにも相談したら、賛成してくれて、って感じですか?

佐:具体的に、というより、妻はこの家に可能性を感じる、みたいなことを言っていて、ここでなにかできないか、と考えていたようですね。妻は芸術性がある人なので。

前:奥さんは絵を描くんですか?

佐:絵を描いたり、こういう看板をつくったり(看板を指す)。

前:そうなんですね。古本とカフェというのはどういうことから?

佐:そうですねぇ…私は本が好きなので…なんていうか、ロバのいる本屋というイメージはあったんですよね。

前・武:おぉー。

佐:なので辞める数年前から、本に関わる仕事をしたいとは思っていました。

前:ここでやるっていうのは、ハードルが高くはなかったですか?

佐:そうなんですけどね・・・他でやるというのもあまり考えられなくて…田舎で静かにやりたいと思っていて…。

前:他の場所も考えましたか?

佐:ちょっと考えましたけど、やっぱりここかなと思って・・・お客さんはあまり望めませんけど、ここでのんびりやりたいなと思いました。

前:実際にここに来れば、この本棚を見て、ゆったりして、気持ちよく過ごされるんじゃないかなと思います。

武:1年近くやってみて、お客さんはどうですか?

佐:そうですね…多くて10人くらいですかね。

武:一日に?

佐:はい。

前:えー、すごい!

佐:すごいですかね(笑)。ロバさんが来てから、新聞などでも取り上げてもらったので、来る人が増えましたね。

前:それは丸森の方が来るのですか?

佐:いや、他の地域の方たちですね。

前:地元の方は来ない?…ここをどう思っているんでしょうか?

佐:やっぱり、珍しいことしているって思っているんじゃないですかね…「よく、ここに出したね」と言われますし。

前:丸森は観光客は多いですか?

佐:そうですねぇ…齋理屋敷(江戸時代後期の豪商の屋敷。町が寄贈をうけた)には観光客は来ますね。

前:そこへ来た人たちがこっちに寄るというのは、ないのかな?

佐:そうですね・・・ちょっと離れていますからね。あと、カフェでもやればいいのでしょうけど・・・。

前:カフェはやる予定なんでしたっけ?

佐:いや、ここは水道水ではなく、湧き水なのでできないんです。

武:そうなんですね!

前:どこの湧き水?

佐:このちょっと上にあるんですけどね。湧き水なので震災の時なども止まることはないんですけどね。

武:それは・・・普段の生活ではOKで、お店ではダメなんですね。

佐:いろいろ設備をつかって、浄水すればいいんですけどね。

前:先ほど言っていたけれど、準備に1年…ここの本はほとんどご自分で持っていたものですか?

佐:はい、そうです。

前:で、少しずつ、増やしていった…買取で?

佐:意外と寄贈していただくことも多いんです。

前:そうですか。そんなに仕入れというのはないんですね。

佐:そうですね。もちろん、寄贈していただいた本、すべてを置くわけではないのですが。

前:そこが寄贈の難しいところですよね。

武:えっと、ここはたしか月に2回のオープンでしたよね?

佐:いえ、週に2回です。

武:うわぁ、失礼しました。来る途中の車の中で、前野さんが月2回って言うから(笑)。

前:あれ、ブログの見方、間違えたかな。

佐:だいたい、水曜日と土曜日に開けています。

前:あっ、ごめん(笑)。

武:もう(笑)・・・基本は水曜と土曜で・・・何時から何時までやっているのですか?

佐:10時から16時までですね。

前:冬は休んだんでしたっけ?

佐:はい。1月から2月は休みましたね。

前:そうなんですね。

佐:冬はやはり開けるのが大変な場所なので。

武:みなさん、やっているかどうかを確認してから来る感じですかね?

佐:ブログにやっている日が載っているので、それを見て来てくれる感じですね。

前:その空けている日以外はなにをやっているのですか?

佐:家の中や外の掃除…あとは耕野小学校という地元の小学校があるのですが、夕方、学童保育といって、見守りなどをしていますね。

前:そうなんですね。

武:この週2回というペースはご自分の中で、なにかあるんですね?

佐:もっと開けた方がいいのかなとも思いますが…あまり、お客さんを望めない部分もありますし、掃除などのメンテナンスもしっかりやりつつ、となると、今はこのペースがいいのかなと思っています。

武:そうなんですね。それと、先ほど、オープンするにあたって、宮沢賢治の命日に、というお話でしたが、宮沢賢治の存在は大きいですか?

佐:私というより、妻が好きなんですね。宮沢賢治の本はすべて読んでいて…。

前:そういう話を聞くと、お店はお二人で作っている、ということですか?

佐:二人で話し合って、いろいろ決めていますね。

前:奥さんがお店に立つこともありますか?

佐:はい。本の選定などは私がやることは多いのですが、他のことは妻が見てくれたりしますね。

前:本はかなりテーマを絞っているような気がします。

佐:はい。食の安全や自然に関するもの、料理の本や絵本、原発のことについて書かれたものなどが多いですね。あとは小説系というか文学のものもありますね。

武:前のお仕事を辞める時のお話で「仕事というのは自分を表現していくもの」という部分がありましたが、そうした意味では、今は自分を表現できているというのがありますか?

佐:掃除するのが好きで、本を磨いたりするのも好きなんですね。古本なので、汚れたものもあるのですが、それをきれいにしたりしながら、こんな作家もいるんだ、とか思いながら…そうやって勉強にもなるし、そういうのが合っていると思いますね。

武:そうなんですね。えっと、前野さんのブックカフェ講座に参加したということですが、その時はもう「やる」と決めていたのですか?

佐:そうですね、もう仕事もやめていましたし…本に関しての仕事…古本屋さんをやってみたいなぁと思っていましたね。

前:そうでしたか。あの時の講座に来てくれた人がもう4人も開業してくれたんですよ。

佐:えー、そうなんですか。

前:すごくない⁉

<ふぅーふぃー> ここでロバの鳴き声!

武:お腹、空いたのかな?

佐:ジャムさん、大丈夫ですよー。(窓から外に向かって)

前:敬語なんだ(笑)。

武:(笑)…丸森で暮らして、お店を出して、丸森には愛着がありますか?

佐:昔に比べると、最近の方がありますね。年齢を重ねるにつれて、田舎の良さがわかるというか。都会にはない静けさや自然の良さがいいんですよね。

前:自然に関しての興味などは昔からあったのですか?

佐:そうですね。アースデイのような環境に関するイベントに行って、いろいろ調べたりしていましたね。

武:奥さまについて訊いちゃうと…どうなんでしょう、奥さまの影響はありますか?

佐:どうなんでしょう…今も敬語で話していますが…。

武:そうなんですか!

前:なんか、似合う(笑)。さっきのロバさんに話したみたいに。

佐:妻はよもぎを取ってきて、ジュースにしたり…自然が好きで、そういう感じで合うんじゃないですかね。

武:いろんな意味でパートナーとして大切な存在なんですね。

佐:はい。

武:あっ、話が戻りますが…ブックカフェ講座に出た時の話だった(笑)…講座に出てみて、どうでした?

佐:その時はまだ家でやるとは思っていなかったですね。どこがいいか…丸森でやれるのか…カフェはできるのか…本の仕入れはどうしたらいいか…いろいろ悩んでいましたね。

前:そうかぁ。

武:そこから現実になっていくのはどんな過程があったのですか?

佐:そうですねぇ…ちょうど家の修繕があったり、うまく本を仕入れることができたり、妻のアドバイスで本の置き方…面出しして、ゆったり見せた方がいいとかを聞いたりしていくうちに、見えてきた感じですね。

前:そうなんですね。

武:では、これから、というか先を考えて、目標というか…やってみたいことなどはありますか?

佐:そうですね…やはり、小さいながらも続けていくこと。持続可能にしていくということがありますね。それと、如何にしてお客さんを呼べるかというもありますね。

前:あと、イベント出店していますよね?アースデイとか。

佐:はい。もっと、そうして出店とかできたら良いんですけどね。

前:それはお店と同じくらい大事な感じですか?

佐:そうですね。お客さんと知り合えますからね。

前:大変ではないですか?

佐:大変なこともありますが、いつもとちがうグッズを作ったり、いろんな方と知り合えたりと、楽しいことも多いですね。

前:なるほどー。開業してすぐ古書組合に加入して、毎回市場に参加されていますが、組合に入ろうと思ったのはどうしてですか?

佐:組合に入った理由は、本の仕入れを充実させたいと思ったからです。
自分の蔵書や古本屋さんからの購入だけでは、本の品数やジャンルも含め限界があると思いました。
それと古本屋さんの世界をのぞいて見たいとも感じていました。
絵本など中々欲しい本が手に入りませんが、本の知識や古本屋の経営なども含め、
地道にやっていきたいです。

前:インターネットでの販売はどうですか?

佐:ネット販売というのがよくわかっていなくて…でも、やった方がいいとは思っています。

前:では、いずれやる感じですか?

佐:やりたいですね、やっぱりネットでしか出ない本もあるでしょうし…前野さんはやっていますか?

前:たいした額ではないですが、やっていますよ。

佐:そうなんですね!どんなところがいいんですかね?

前:ネットでしか売れないような本がありますからね。より専門性が高い本とか…ネットで本を探している人がいるので、ニーズがありますね。

佐:そうなんですね。

前:がっちりやるには労力と場所が必要なのでむずかしいです。それも踏まえて…お店を週5日営業して、ネットとイベントもやって…いろいろ悩みながらやっていますね。

佐:そう考えるとすごいですよね。週5日開けて、本の仕入れもして、カフェの仕込みもして、イベントに出たり、こうしてここにきて話をしたり…。

前:まあ、あらためてそう言われると(笑)。

武:やり方をどう考えていくか…ということでもあると思いますけどね。

前:家賃がなかったら、いいなぁとかは思ったりするけど…ウチは自宅も賃貸なので家賃が二重あって。まぁ、街中でやるというのを選んだ…スタイルですよね…どういう風にやっていきたいか、ですよね。

佐:なるほど。

前:どういうスタイルでやっていきたいか、というのと、どれくらい売り上げを作っていきたいか、というのはタイヤの両輪みたいなものだと思うんですよね。私はお金の大きさって思想を生むと思っていて…お金って悪者ではないんですよね。その規模が生活スタイルに関係してくるから、そこをしっかり考えることは商売において大事なことだと思います。

佐:そうなんですね(考え込むように)…。

前:これは金額や規模が大きいからイイとか悪いではないんですけどね。

佐:目標の立て方なんですね。

武:先ほど、イベントに出て、お客さんを増やしていかなきゃって話していたんですけど…佐藤さんの生活と営業のペースでは少し難しいのかなとも思ってしまうのですが…これはいい意味でもあるんですが、どうでしょうか。

佐:そうなんですけどね…ここでやっていても、人がなかなか来ないですからね…地元も人も来ないし…なので、自分から出ていくっていうのもありますね。

前:逆にいえば、地域のコミュニティになっていきたいというのはありますか?

佐:うーん(考え込む感じ)…。

前:たとえば、地域の人が集まる場所に、っていうのであれば、丸森の歴史や地域の魅力がわかるもの…書籍だったり、資料だったり、映像だったりが置いてある、というのもいいかもしれませんね。

佐:あー、なるほど。

前:そういう資料館的な役割は、地元の人だけじゃなく、他所から来た人も、ここに来れば、丸森がわかるってなるからイイと思います。もちろん、丸森は行政も観光に力を入れていて、それはそれで魅力を伝えてはいますが、ここでは行政にはできないこと…古本屋ならではの視点でそれを考えていくのもアリかなと思います。

佐:はい(感心している感じ)。

前:ここは佐藤さんの城だから、思いっきりやってみてもいいと思います。良い羽目の外し方というか。

佐:羽目を外すのが苦手なんです。

前:(笑)そうかぁ!…私みたいには外さなくてもイイんだけどね。

武:佐藤さんはむずかしいと思います(笑)。なので、佐藤さんが羽目を外さなくても、たとえば、他の丸森の方で、ここでなにかやりたい方に場所を提供するとか…正直、丸森の日常の中で、人を取り込んでいくのは難しいと思うんですね。で、それでイイとも思うんです。ただ人が集まるようになっても煩わしくなってしまうかもしれないし…でも、なにか話さなきゃいけない時にここに集まるとか、たとえば、アート系のイベントなどを考えた時に奥さまとなにかやるとか、そういう会場のひとつになっていくといいのかもしれませんね。

佐:たしかに、イベントはなにかやりたいとは思っていますね。

武:必ずしも、やるのがイイとは思いませんが、地域の人や他所から来た人が交流する第一歩にはなるのかなぁ、と思って。

佐:コミュニティスペースとして利用してもらうのは、たしかにイイですよね。イベントもなにかやれればいいんでしょうけど…小さくても…。

武:最初に話したように、自分を表現できる仕事場で、のんびり、静かにやっていくというのは、ほんとうにイイと思います。と同時に、お客さんを呼ばなきゃいけない、というのも大事なことだし、その辺りのバランスがどうなっていくのか、面白いところでもありますよね。

佐:そうですね。

前:本屋ってどんどん少なくなってきていて、ネットで買う人がこれからも増えていくと思うんですよね。それは確実に。そうした中、本を買う目的のためだけに本屋に行くのではなく、本のある空間に行きたいってなっていくと、田舎も都会も関係なくなって、むしろ、こうした長閑な良い空間で本に接することも注目されてくると思います。

佐:なるほどー。

前:それは商売としては成り立ちづらいかもしれないけど、そうじゃない動機で始める人は増えていくかもしれません。どうしても、商売を優先に考えると、都会の方が人が多いので成り立ちやすいけれど、もうそうじゃない場所に本屋ができてきているので…

佐:たしかに仙台の書店も減ってきましたね。

前:佐藤さんはそうした状況…本屋が少なくなってきていることなどを考えたりすることはありますか?

佐:そうですねぇ…みなさん、やはり情報に縛られているような感じはしますね。どうしてもネットに関心がいくというか…ほんとうはそうした中、ゆっくり本を読む時間が持てればいいと思うのですが…。

武:ここが、ちょっと立ち止まれる場所になっていけるとイイですね。

佐:はい。ただ、さっきお話してもらったように、本だけではなく、資料館的な感じやカフェみたいな感じもアリかなと思います。

前:足を運ぶきっかけ、になりますからね。たとえば古本屋って言われた時に、みなさんが持つイメージはそれぞれだと思うんですよね。所謂昔からある街の古本屋さんのイメージを持つ人もいれば、リサイクルショップのような大型店を思い浮かべる人もいて…もしかしたら、古本屋にはあまり良いイメージを持ってない人もいるかもしれません。だからこそ、ここのお店として、なにかを伝えていった方がいいと思うんです。森の中の古本屋さんとして、みなさんが持つイメージと佐藤さんが伝えたいイメージが合えばいいのですが…やはり、そこはここにしかないなにかを伝えていくとイイと思います。

佐:なるほどー、そうかもしれませんね。

前:そういうイメージというか、伝えたいことの難しさ、大事さってあると思わない?(武田の方を向いて)

武:うーん、そうだなぁ…前野さんは火星の庭というハードな古本屋さんをずっとやってきて、ぼくも自分の活動をやってきて、その中でBook! Book Sendaiを二人で続けているわけですが…なんて言うだろう…ブックブックは舐められているようなところがあると思うんですよね。本好きな人たちからは…「本のイベントなんてやれるの?」みたいな感じで。でも、それは意図したところでもあって、ブックブックは良くも悪くも敷居を低くしていこうというのがあったんですね。本をディープに好きな人は「イベントはどうでもいいから、おもしろい本、ほしい本を手に入れられればいい」となるわけです。それももちろん、わかるのですが、それはまず置いておいて…。

前:そう、ふだん本に接していない人達にイベントなどで、交流したり、あまり知られていない街で起きていることなどを紹介したり、ということだったから。遠回りだけど、最終的に本を手にしてほしいという想いで。

武:そうなんですよね。一ヶ月に何冊も本を読む人からしたら、ブックブックは物足りない、だけど、一ヶ月に一冊くらいは本を読んでみたい、一年に一冊くらいって人に対しても入り口になる。もちろん、これはどっちが良くて、悪いってことでもないし、そのどっちもがほんとうの姿でもあって、一ヶ月に一冊の人が2、3冊になってくれればいいし、その時にたくさん読んでいる人の本の読み方とかに触れることになるかもしれない。そんなことを考えてはやってきたんですね。ブックカフェ講座も、かっちりとして敷居を高くしたら、もしかしたら参加者は減ってしまったかもしれない…だけど、開かれているとはどういうことかを考えていくというのはありますよね。

前:そうだよね。わたしも本業の火星の庭とはつながっているけれど、一致はしないで、どこか区別してやっています。お店は本があるところを目指して来てくださる方へ向けていて、Book! Book! Snedaiは本のないところに本を置いたり、本にあまり興味のない人も含めていろいろな人へ本を届けたいと思ってやっています。いつかは混ざり合ったらいいなと思いながら。

武:だけど、続けてきて、そこは思った以上に混ざっていかないというのがあって、ある程度はわかってやっていたつもりでも、やはりめげてしまう部分もあって…どっちも大事ですよね、って伝えるのが難しい…。スローバブックスも、来ればすごい良いところだってわかるし、今日も来て、すごいなぁと思いましたが、やはり、ここに来てもらうまでのこともすごい大事なんだと思います。

前:そうだよね。来れば、良いところってわかるよね。

武:なので、一年に一度でも二度でもいいから…今日はクッキーがありますとか、水がダメなら、誰かと一緒に企画して、今日はコーヒーが飲めます、みたいなここに来るまでの、なにかを作れるとイイのかなとは思いますね。

佐:あー!

前:そう、スローバブックス祭りとか、ね。なにか、きっかけ作りができるとイイですよね。

武:そうそう、夏休みはここで宿題してもイイですよ、とか…

前:そう、そして子供向けの本がその時は置いてあってね。

佐:なるほどー。

武:たまに背伸びしてもいいのかなぁ…みたいなね。

前:イベントっていうと、大きく感じてしまうと思うんですが、無理してやることではなくて、5~6人のお客様がいらして話すのもイベントなんですね。普段の形を大事にしながら、ときどき間口を広くしてみる…そうして、この空間がどんなことができるのか、求められているのか知っていくのは良いと思います。

佐:それは確かにそうですね。

武:佐藤さんらしく・・・スローバブックスらしく、なにかやっていけるとイイですね。ぼくは今日ここにきて・・・思ったのは、佐藤さんはプロだなぁ、と思ったんですね。別に審査しに来たわけじゃないですよ(笑)。空間の作り方や什器のこだわり、本の選書、配置など、いいなぁと思ったんです。で、もちろん、前野さんも・・・火星の庭もプロですよね。どっちがすごいじゃなくて、どっちも大事だと思うんです。街にはどっちもあってほしい。だけど、これが自分の家で趣味でやっているとなるとお客さんもそういう付き合い方しかしなくなると思うんですね。お客さんもお客のプロとして、ちゃんとお店に行ってお金を使わなくなっちゃう・・・それはなかなか言葉にできないことだから、難しいんですが。

佐:あー!そうですね。それはわかります。続けていけるように、無理せずにやっていきたいですね。

追記:
佐藤さんの佇まいがスローバブックスと同じく、控えめで、こちらの言葉を待っているという感じがあり、ついつい武田さんとわたしが熱く(笑)なってしまいましたが、佐藤さんの雰囲気が伝わるといいなと思います。このインタビューの後、スローバブックスでイベントがありましたと、佐藤さんから報告が届きました。阿武隈川ほとりの町、丸森。ぜひ皆さん、宮城県南部の丸森町へ、スローバブックスへ、遊びに行ってみてください。(前野)

佐藤さんから。
9日(土)の夜に店内にて「月と音楽とブータン」というイベントを実施しました。
秋の夜長、琴やギターそして三線の音色が静かに流れました。
場所の他に、玄米と雑穀のおにぎりを提供しました。
20人強(地元の人も含む)の方が来ていただき無事終了しました。

 

【スローバブックス フライヤー】クリックで拡大します

 

ブログ
「スローバブックスのスローな日々」
http://slowba.exblog.jp