ここまでのインタビュー記事一覧

2016年度と2017年度、Book! Book! Sendai(以下B!B!S)は、
前年度まで続けてきたイベント運営の活動を一旦お休みして、
あらためて、
B!B!Sの最初のテーマであった「街で本と出会う」ことに目を向け、
今、街で起き始めていることを調べ、考え、
このB!B!Sのwebサイトを中心にみなさんに伝えていけたらと思います。

東日本大震災から数年が経過し、
宮城県のいろいろな場所で、本のあるスペースを作る動きが出てきています。
今年度のB!B!Sでは、それらのスペースを作った/作ろうとしている人々に
取材をさせていただき、発表していきます。

★第1回は、
宮城県南三陸町の「みなみさんりくブックス」(2016年7月31日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1483

お話:みなみさんりくブックス/「かもしか文庫」栗林美知子さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ

★第2回は、
宮城県石巻市の「石巻まちの本棚」(2016年9月3日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1537

お話:石巻まちの本棚/勝邦義さん、阿部史枝さん
聞き手:Book! Book! Sendai 前野久美子

★第3回は、
宮城県多賀城市の「絵本図書室ちいさいおうち」(2017年3月2日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1602

お話:絵本図書室ちいさいおうち/佐々木優美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子

★第4回は、
仙台市宮城野区小田原のカフェのある絵本屋『メアリーコリン』(2017年5月26日UP)
http://bookbooksendai.com/?p=1637

お話:メアリーコリン/阿部理美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子

     

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     ☆第5回も、もうすぐアップ予定です!

     

      【LINK】

     みなみさんりくブックス
     http://minamisanrikubooks.tumblr.com

     石巻まちの本棚
     http://bookishinomaki.com

     絵本図書室ちいさいおうち
     http://ameblo.jp/tiisaiouti116/

     メアリーコリン
     http://www.marycolin.com


メアリーコリン(仙台市宮城野区)インタビュー

お話:メアリーコリン/阿部理美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子
2017年4月10日インタビュー

仙台の中心部からちょっと外れた街の中にこっそりと、絵本のブックカフェが登場しました。今はまだ、こっそりだけど、ゆっくりと町並みに溶け込んでいって、道行く人が中を覗き、ちょっとドキドキしながら入ってきて、絵本をめくりながら、自分の時間を楽しんでいます。

カフェをつくったのは阿部理美さん。Book! Book! Sendai(以下、B!B!S)のスタッフでもあって、なんと、B!B!Sの企画「ブックカフェ講座」の受講生でもあります。そんなわけで、ぼくたちとしても、このブックカフェの誕生はとてもうれしいのです。

その辺りは、ぼくより前野さんの方が熱く語ってくれると思うので・・・前野さん、一言お願いします。(武田)

 阿部さんとは2010年のB!B!Sが主催したブックカフェ講座で初めてお会いしました。受講生からどんなお店をやりたいか考えてもらったとき、阿部さんはとても具体的だった記憶があります。たいてい開業講座をやっても実際にお店を作る人は少ないなか、阿部さんはその後B!B!Sのスタッフになって、ときどき会っては経過を聞くと、仕事を辞めてからはカフェでアルバイトをしたり、イベントに出店したりして、着実に実現へ向けて進んでいるようでした。なんというか、阿部さんは外から見た感じは柔らかで控えめなイメージですが、意志の強い方だと思います。それでとうとうお店をオープンしたと聞いて、他人のお店なのにやったーと万歳したい気分になりました。阿部さんのつくったお店は、看板からコーヒーカップ、並んでいる本までこれしかないという感じで、もうずっと前からそこにあったような自然な佇まいのお店でした。いろいろと紆余曲折あったと言うけれど、阿部さんがお店をやることは自然に決まっていたことなのでしょう。メアリーコリンと阿部さんは似合っています。そう感じつつも、これまでのお話を聞いてみました。(前野)

前:いつ頃からお店をやりたいと思っていましたか?

阿:B!B!Sのイベント・・・stock/吉岡さんたちのブックカフェ講座・・・に行くちょっと前だと思います。

前:最初からブックカフェを開きたかったのですか?

阿:ブックカフェをというよりも、本に関わる仕事をしたいというのと、カフェの仕事をしたいというのがあって・・・それを両方叶えるとなると、ブックカフェだと思ったのです。塩竈の図書館で働いていたので、本に関わる仕事はしていました。カフェとなると、いつからしたかったのか、はっきりはしないのですが、B!B!Sのブックカフェ講座を受けに行った時はそう思っていましたね。

前:図書館の仕事は何年やっていたのですか?

阿:開館準備室の時も入れると17年かな。出たり入ったりしながらですが。

武:そんなにいたんですね!

前:図書館の仕事はどうでしたか?

阿:楽しかったです。周りの方に恵まれて、良い職場でした。あらゆる方に必要な情報を提供できる公共図書館という施設は、なんていい施設なんだろうと思っていましたし、仕事としてやりがいも感じました。

前:図書館の仕事を極めようとされていたんですね。

阿:そういうつもりではがんばっていました。良い図書館員になりたいと思って。

武:図書館の仕事のやりがいというのはどんなところですか?

阿:あのぉ(考えながら)・・・利用者の人がきて、なにかを探している・・・それに一所懸命応えるというのが・・・当たり前ですが、やりがいがあり、楽しかったです。なんていうか・・・役に立っている感じがあるというか。

前:図書館の仕事の中で、本に対しては、どうですか?

阿:そうですね・・・。本、そのものを考えるとどうなんだろう・・・。

前:本、そのものというより、人との関わりの方が大きかったのでしょうか?

阿:自分の好きな一冊の本があっても、図書館の仕事の中では、それよりも全体を把握して利用者に伝えていくということが大切でした。図書館の仕事は本好きだから働くというのとは違うと思っていました。個人的には、本に触れた時の手触りとか、めくっている時の感じとか・・・そういうのが好きで、本に触っていると不思議と落ち着く感じがあって。そういうことも含めて、図書館の仕事が好きでした。

前:うんうん。

武:ちょっと気になるのですが、図書館のお仕事って、とても忙しくしているイメージがあって・・・みなさん大変そうな感じがするのですが、理美さんの話だととても良さそうで・・・街の図書館というのは、その街の雰囲気にも比例しているのですかね?

阿:街の大きさとかは関係していると思いますね。あと、私たちは開館前からいたので、どうしても思い入れができましたよね。なにも入っていない棚に本を入れていくというのに立ち会うというのは、なんとも言えないものがありました。

武:そんな中で自分のお店を作っていきたいという流れになるのはどういう感じだったのでしょうか。

阿:それはいくつかありますが・・・まずは絵本のなかにいたい、絵本のなかで暮らしていたいというのがあって・・・。

武:でもそれは図書館でもできるのではないですか?

阿:うーん、仕事を続けていると、それだけではなくなってきますからね。自分のイイと思うことだけではできないし、やりたいことだけやるわけにもいきませんから。

武:このままではみたいな・・・感じがあったのですか?

阿:働いていると、時間の大半をそこ(職場)に費やすから・・・残っている時間は少ししかなくて・・・自分のやりたいことを思いっきりやってみたい・・・もしかしたら、その気持ちだけかもしれません。

武:ブックカフェ講座に出た時はどう思いましたか?

阿:やっぱり、楽しそうだなって思いましたよね。

前:そう思ってもらえたのはよかったです。吉岡くんはけっこうシビアなことを言ってましたが。

阿:それも楽しそうって思いました。

前:どんなところが?

阿:一つ一つにすごいこだわりがあって・・・こんなお店あるんだって驚いて・・・でも、それがとても楽しそうに思えたんです。

前:なるほど。じゃあ参加して、ますますやりたい気持ちになれましたか?

阿:はい。

武・前:おぉー。

前:これは今日のポイントだね(笑)。B!B!Sのブックカフェ講座を受けて、良かった!って(笑)。

武:ほんとだね(笑)。でも、それで、けっこうできないと思ってしまう人もいますからね。こんなにこだわってはできないって。

阿:だって、それが自分のやりたいことだったから。自分のいいと思うモノ・コトだけでできている空間って、いいじゃないですか。

前:ああ、そう思えるのは、お勤めしていたというのも大きいかも。で、実際に動きだすのはそこからちょっとかかるわけですよね。

阿:そうですね。現実的には、仕事をすぐに辞められるわけではなくて・・・。

前:それは仕事のポジション的なことですか?それとも、家計的なことですか?

阿:家計的なことですね(笑)。時期を待ちました。

前:なるほど。震災の影響もありましたか?

阿:そうですね。たしかに、それもありましたね。(職場が塩竈だった)

前:話がちょっと戻りますが、ブックカフェ講座を受けて、B!B!Sのイベントも手伝ってくれたんですよね?

阿:だって、講座を受けた人は(イベント当日)サンモール一番町に本を持っていって、カフェの店員もするっていうのが条件だったんですよ。

武:えっ、そうなの?

前:そうだった(笑)。

阿:講座に行く時は、そのイベントに行かなきゃいけないっていうのもわかっていなかったんですけどね・・・。

前:詐欺みたいだね(笑)。

武:ほんとそうだ(笑)。

前:まぁ、実践も大事ということで。

阿:行って、自分の棚をちょっと作ればいいのかって思っていたら、なんか、エプロンをつけられて(笑)、いきなりカフェの店員になってしまったんです。そんなつもりじゃなかったから、エプロン事件はほんと、衝撃でしたよ。

前・武:ヒドイね(笑)。

武:でも、無理やりな感じになっちゃいますが・・・ぼくたちとしては、B!B!Sを手伝ってくれていたメンバーで、ブックカフェ講座を受けてくれたメンバーの理美さんがお店を出してくれたのは、感慨深いものがありますよ。本人は嫌かもしれないけど(笑)。

阿:そんなことないですよ。そう言ってもらえると、すごい嬉しいです。

武:お店できるのが待ち遠しかったんです。

阿:でも実際にやると決めてから、こんなに時間がかかるとは思わなかったです。

武:なにがそんなに大変でしたか?

阿:物件選びですね。

武:どれくらい見たんですか?

阿:30くらいです。

前:最初は塩竈で考えていた?

阿:多賀城とか、七ヶ浜とかも考えていましたね。

前:そのエリアだったんですね。

阿:はい。とくに塩竈近辺で探してはいて・・・その中で、塩竈の物件でイイものに出会えて・・・ほとんど決めていたのですが、突然ダメになってしまって。まるで失恋。・・・それで、かなり落ち込んでしまいました。

前:そうでしたよね。

阿:そうです。その傷心中に知り合いからここの話があって、仙台は考えていなかったのですが、そんな時だったので見に来て・・・人がたくさん歩いていて・・・あれっ、イイかなぁと思ったのです。

武:お店をやっているお二人に訊きたいのですが。物件ってどうやって決めるんですか?スピリチュアルじゃないけど・・・なんか、閃くものがあるんですか?

前:笑

阿:そうですよね。探している時はどうやったら決められるのかなって思ってましたよ。

武:何件くらい見たら、わかってくるとか・・・そういうのってあるのかなって。

前:うーん、でもやっぱ運というか、出会いだからねぇ・・・100%理想の物件なんてないから。2つ3つ候補があったら、決めてしまうしかないよね。あんまり時間かけていると・・・開業なんてやみくもな熱だから。その熱を持続させるのは大変。迷っている間は無給状態が続くわけだし。

武:師匠からそういうことは言われた?(笑)

阿:そういう指導を受けました(笑)。

武:そして、ここに出会ったわけですね。

阿:ここは人がいっぱい歩いていて・・・なんていうか、前のその失恋した物件の時は建物自体がとても好きで・・・だけど、場所は奥まっていたから、そこに来る人を想像していなかったのかなと思って・・・ここに来たら、お客さん像が見えてきて・・・。

前:どんなお客さん像があったんですか?

阿:女性が一人でも入ってこれる感じというか・・・働いていて、がんばっていて、子育てもしていて、そういう女性が立ち寄ってくれて、また明日もがんばろうと思ってもらえるお店にしたいって思っていました。ここに来た時に通勤の人たちがたくさん歩いていて、この人たちが入ってきてくれたらなって思ったんです。

前:それは、理美さん自身が勤め人で子育てもがんばってきて・・・前に探していた時はその感じが強かったんじゃないかな・・・自分が行きたいお店を選んでいたんじゃないかな。ここにきて、初めてやる側として、お客さんを迎え入れる場所を見つけられたんじゃないかな。

阿:そうですね。ほんと、そうだ。

武:ここを見てからはどれくらいで決めたんですか?

阿:去年末に初めて見たので・・・。

武:早いといえば早いですよね。

前:内装なども自分でやったんですよね?

阿:プロの力も借りましたが、ペンキ塗ったり、床を剥がしたり、タイル貼ったりは自分でしました。

前:すごいよねー。

阿:楽しかったですよ。

前:私は根気がなくてできないな(笑)。

武:(店内を見て)これを自分でやるのはすごいよね。

前:仕事をやめてからは、2年くらいですか?

阿:はい。でも、はじめ物件探しはそんなに大変じゃないと思ったんです。久美子さんからいろいろ見ておいた方がいいよって言われたんだけど、なかなか条件が合うのはなくて、ほんと、大変だなと思いました。

武:実際にオープンして、どれくらいですか?

阿:今はまだ、正式のオープンではないかな(笑)。

武:そうなんですか?(笑)

阿:えっと、3月15日から3月いっぱいはプレオープンで、4月1日から一応、始めています。

武:慎重だなぁ(笑)。さっき、自分のやりたいことを思いっきりやりたいって言っていましたが、今はどれくらいできていますか?

阿:そうですねぇ・・・今はスタート地点ですね。カフェの居心地の良さもこれから作っていきたいのですが、本に関しても、最低限自分のいいなぁと思うものを揃えている感じで・・・その中でなにか特色というか、極めていく部分を作っていかないといけないと思うんです。

前:メアリーコリンの本棚は「こういうの」っていうのを作っていくわけですね。で、それはお客さんと一緒に作っていくんですよね。店主だけで作っていくんじゃなくて、相互作用で作られていくんだよね。

武:そうなんですね。たまには勉強になること言うね(笑)。

前:(笑)

阿:今はまだたくさんのお客さんが来ているわけではないけど、「絵本のカフェができた」ってことをどこかで聞いて来てくれる方もいて、そういう方は棚を見て、いろいろ感じてくれて、そういうのはうれしいですね。

武:まさにお客さんが作っていくという話になりますね。

阿:はい。

前:棚の作り方はいろいろ変化していきそうですね(新刊の絵本と古書の絵本がある)。なにか・・・おすすめの本にコメントをつけたりしてもいいのかも。

阿:なるほど・・・でも、ポップとかが貼ってあると、くつろぎ感が減少してしまうような気がして・・・。

前:たしかにそうなんだけど・・・なんて言うのかなぁ・・・(考え込みながら)ブックカフェの本というのは、売り物に見えにくところがあって。売りたいという気持ちは押し付けや嫌味にならなければもっと出してもいいと思う。あまり落ち着きすぎると消費力が落ちる気がします。まぁ、自分の店のことも含めて言っていることですが。

武:なるほどねー。

前:消費って刺激っていうか、興奮みたいなところあると思う。例えば、うち(火星の庭)はお店も自宅も賃貸で家族3人が食べていかないといけないから、ちゃんとお金を落としてもらいたいというのがある・・・本音を言うと。だけど、所謂チェーン店のようなやり方はできないわけだから、どうしていけばいいか、いろいろせめぎ合いなんだけど・・・お客さんもお店に入ってきた以上はなにかを見つけて帰りたいっていうのがあると思うんですよね。だから、ちゃんとアピールしなきゃいけない部分があって、ここにある本を回転させたいのか、回転させたくないのか、その辺が見えてきた方がいいと思うんだけどなぁ。

阿:そうですね・・・回転させたいですね!

前:お金とものを動かすのが楽しいと思えるなら、それは全然不純なことではないんだよね。

武:たしかにそうかも、ですね・・・ぼくはお客としてになるけれど・・・最初は、正直、付き合いで行くから、それこそ何か買ってあげなきゃと思っているし、それからリピーターになっていくとまた違った買い物がしたくなっているというのはありますね・・・そういえば・・・火星の庭に行くと、いろいろ薦められていつの間にか買っちゃっているよ(笑)。

前:(笑)さわやかな押し売りって大事ですからね。

阿:それがまだ・・・できない(笑)。

武:もちろん、ここでのやり方を作っていく、というのもあるもんね。

前:そう、できれば買ってほしいって感じでね。

阿:そうですよね。自信を持って選書した本ですもんね。買って、家に帰って、読んでほしいと思いますよね。

武:それがさっき話した、自分ではなく、お客さんが作っていくというやつですね。すごく繊細なところですよね・・・自分のお店だけど、自分だけでは作っていけないというのは・・・。絵本カフェだけど、大人がくつろげるところにしていきたいというのもおもしろいですよね。

阿:そうですね。親子で来てくれて、本棚を見てくれるのも、うれしいけれど、仕事や子育てをがんばっているお母さんが一人でちょっと立ち寄ってくれて、落ち着ける時間を過ごせるというか、自分を取り戻す時間にしてもらえたらといいなぁと思います。

武:最後にお店の名前の由来を教えてください。

阿:MARY(メアリー)とCOLIN(コリン)は、児童書『秘密の花園』の主人公の名前です。『秘密の花園』は、親の愛情を受けずに育ち、心が傷ついている少女メアリーと少年コリンが、荒れ果てた庭を手入れして再生させるなかで、心も体も健康になり、生きる力を取り戻す、癒しと再生の物語です。この店に立ち寄られた方が、ほっと一息ついて、また明日がんばろうと思えるような、そんな場所になるといいなと思って付けました。
『秘密の花園』を読み返した時に、私の気持ちにすごくぴったりしたので、ずっと前から店名に決めていました。

      ◇

BOOK WITH CAFE MARY COLIN
カフェのある絵本屋 メアリーコリン
〒983-0803 宮城県仙台市宮城野区小田原1丁目9-28


http://www.marycolin.com


絵本図書室ちいさいおうち(宮城県多賀城市)インタビュー

01

お話:絵本図書室ちいさいおうち/佐々木優美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子
2016年10月20日

みなさん、こんにちは。前回の年末対談(吉岡さん・前野・武田)の記事から、もう2か月・・・というか、今年ももう2か月が過ぎ・・・年度で言えば、もうすぐ年度末。今年度のB!B!Sの活動はイベントをやらずに、このサイトが中心ですが、それも1年が過ぎようとしています。そもそもいろんなことを感じ、考え、こうして動いてきたわけですが、それは必ず次の展開につながっていくと思っています。「来年度の話もしなきゃね」と前野さんと話しています。

その前に、多賀城に取材に行ってきました。新しい家庭文庫ができたのです。なまえは「ちいさいおうち」。ぼくの世代で家庭文庫と言うと、なんとも言えないなつかしさがあって・・・B!B!Sを始めてから、本の話をすると、たくさんの方が子どもの頃の思い出として、または本と出会った場所として、家庭文庫の話をしてくれました。

なので、いつか家庭文庫の話もしたいなぁと思っていたところ・・・多賀城に新しく出来たということで、お話を聞いてきました。

コーディネートは多賀城市市民活動サポートセンターのセンター長・中津涼子さん。B!B!Sのメンバーとしてもいろいろお世話になっています。彼女の案内で「ちいさいおうち」に向かいました。

03

静かな住宅街にあって、毎週水曜日の開館で・・・正直言うと・・・普段イベントを企画したり・出ている自分としては、「ほんとうに来館する人いるのかな?」と失礼ながら、思ってしまったのですが・・・その辺りは、時間はかかっても、確実に、丁寧に、足を運ぶ子どもたちが増えてきているようで・・・こうした時間の流れ方や、関わり方にも教えられることが、いろいろある取材でした。

武:はじめられたきっかけはなんだったのでしょう?

02

佐々木優美さん(以下・佐):8年前まで小学校の教師をしていたんですね。受け持った子たちも低学年が多くて・・・絵本はずっと好きで学生時代から買っていたのですが・・・教師の時に絵本を大人買いして(笑)、教室に置くようになったんです。そして、朝の会などで読み聞かせしたりしていたのですが・・・何年か前に、新聞に家庭文庫の草分け的存在の松尾文庫の30周年の記事が載っていたんですね。それを読んで、自宅でこういうことをしている活動を知って、いつか仕事を辞めたら、自分もできたらいいなぁと思ったんですね。

武:なるほど。

佐:年取って・・・いつか、やりたいなぁ、っていう夢ですね。現実性はあまりなかったのですが。

武:では、ご自分の思い出として、子どもの頃に家庭文庫に通っていた、ということではないんですね?

佐:はい。家庭文庫自体を知らなかったんです。

武:そして、教師をやめる時が来ると・・・。

佐:はい。2009年に早期退職するんです。親の面倒を見なきゃいけないというのがあって。

武:そうでしたか。

佐:でも、それは表向きの理由かな(笑)。ほんとうは、もういいかなぁみたいな気持ちもあったんです。

武:というと?

佐:学校ではなかなか自分のやりたいことをやることが難しく思えたんです。以前、朝日新聞のオーサー・ビジットを知って、その時2年生の子を受け持っていたので、五味太郎さんを呼んでみたいな、と思ったんです。結果、抽選でダメだったのですが、それを実現したいと思っても、学校の中だといろいろ手続きが大変で・・・私は偏屈だから(笑)、結構言いたいことを言っていた方だと思うのですが、やはり学校だとなにかやりたいと思っても、実現するのは難しいなぁと思いました。

前:そうなんですね。昔はもっと自由だったんですか・・・?

佐:そうでしたね。先生方の個性を生かす場面もありましたね。

前:やはり、お仕事としてはすごい忙しいのですか?

佐:そうですね。仕事量がとにかく多くて・・・しかも、それが子どもに還元できるものならいいのですが・・・もちろん、仕事というのは、そればかりではなく・・・以前はそれでも学校に意見を言える感じはあって、それが反映されたりもしたのですが、最近は自分の考えを言っても「一応ご意見としてうかがっておきますが、この方向でやってください。」で終わってしまって、意見もだんだん言わなくなっていってしまったんですね。そういうフラストレーションがたまっていきました。

前:そうなんですね・・・。

佐:そんな流れで、主人に相談したら、親の介護が必要だったこともあり、「やめていいよ」と言ってくれたんです。

前:すんなりやめれたんですか?

佐:そうですね。私が言いたいことを言っていたのもあってか(笑)「やめます」「わかりました」という感じでした(笑)。

一同:笑

佐:ただ、もちろん、これは私の側の話ということでもありますよね。どっちの立場にも考えはあるだろうし。

武:たしかに、そうですね。でも、実際息苦しくなってきているような気はします。ぼくが子どもの頃の学校の話とかすると、今の子たちは信じられないんじゃないかな。

前:たとえば?

武:野球の日本シリーズを授業中に見た記憶がある(笑)。

前:私も百恵ちゃんの結婚式見た記憶がある(笑)。

武:今、そんなことやったら、炎上だね(笑)。

一同:笑

武:辞められてからはすぐ動き出したのですか?

佐:2009年の3月に辞めたのですが、母が寝たきりで・・・私、実家が石巻なんですね。それで、平日も通って・・・やりたいって思っても、実際に動くって難しいですね・・・本もここには置けなくて、レンタル倉庫を借りて、置いているような状態だったんです。

前:そうですよね・・・締め切りがないというか・・・いつ始めていいかわからなくなる。

佐:はい。そんな感じで2年が過ぎてしまったんですね。だけど、2011年のお正月頃に「いよいよやるぞ」ってリフォームしていたんですね。そして、99%出来た頃に震災が起きて・・・母が海の近くだったので亡くなってしまって・・・。

前:そうだったんですね。

佐:それで、やっぱりバタバタして・・・しかも、レンタル倉庫も水を被ってしまって、本が半分くらいダメになってしまったんですね。

前:えっ。

佐:床上50cmくらいだったので、上に置いてあったのは大丈夫だったんですが。「あー」って思っていた時に・・・私、新聞に縁があるのか・・・震災の次の年、2012年の1月の新聞で塩釜の長谷川さんという方の記事が載っていて、自宅が被害にあって、本もダメになってしまっているけど、全国からの支援で塩釜で文庫を開くというのを見て・・・長谷川さんという方は宮城県のいろんなところでいろんなことをやっている方なんですけど・・・こんな近くにも同じようなことを考えている方がいるんだと思って、長谷川さんに連絡を取って・・・そうすると、なんだろう・・・同じ志を持っている方と話していると動くんですよね。

前:そうですよね。

佐:それで、長谷川さんも2012年の12月に塩釜の自宅で「海辺の文庫」というのを開くんですね。そして、その手伝いをしながら、「じゃあ、私も」ってなって。

前:お手伝いをしながら、やり方もつかんでいったんですね。

佐:そうですね。長谷川さんも顔の広い方で、いろいろな方を紹介してくれて・・・松尾先生の高校の教え子でもあったんですね。それで、憧れの松尾文庫にも連れて行ってもらったりして。

前:一気にいろいろ動きだしましたね。

佐:はい。それで、2013年の4月から、開きました。

04

武:先ほど、同じ志を持ったもの同士で、いろいろ学ぶことがあったと仰っていたのですが、どんなやりとりがあったのでしょう?

佐:そうですね、具体的なノウハウというよりは、考え方だったり、想いを伝え合ったりしている感じでしたね。また、私はずっと仕事をしてきて、地域のつながりとかはわかっていなかったのですが、長谷川さんは塩釜でずっとやってこられたから、そういうことの大切さも教えてもらいました。

武:ご主人やご家族はどんな感じでしたか?

佐:そうですね・・・主人は一人が好きな人なので、自宅に不特定多数の人が入ってくるのは、嫌がると思っていました。ただ、リフォームする時に「こんなことがしたい」って話したら、反対はされなかったですね。そして、始めたら意外にもすごく協力的で・・・。

中津涼子さん(以下・中):この前のイベントの時も大活躍でしたよね。

佐:そうなの、そうなの。そこは、すごいイイ誤算だったんです(笑)。

一同:笑

佐:あと娘が二人いるんですけど、上の子は塩釜で保育士していて、今は育休中で、友達連れてきてくれたり、イベントの時も手伝ってくれたりしています。

前:いいですね。

佐:下の娘も仕事しながら、あちこちでチラシ配ってくれたりしているので、家族的にはすごい恵まれています。

前:ご家族の協力は大きいですね。

武:子どもたちの利用状況はどうですか?

佐:それが一番の問題です・・・そうですね・・・多くて10人、来ないかな・・・5、6人来ればいい方かな。なんて言うのかな・・・チラシだけで、知らない家に来て、チャイム鳴らして、玄関から入るっていうのは、難しいことだと思います。だから、人が人を呼ぶのがいいのかな・・・一度来た人が「こういうところあるから、行かない?」って言うのを期待しているんですが、なかなか広がらないかな・・・。

武:そもそも、今は気軽に他所の家に遊びに行ったりしなくなりましたもんね。

佐:そうですね。あと、習い事とかで子どもたちも忙しいですしね。そんな中、多賀サポのイベントに呼んでもらって、チラシを配ったりして・・・あと、ブログもがんばって更新して、少しでも中の様子がわかってもらえるといいのかなと・・・私もマメにいろんなことをやれればいいのですが。

中:多賀城は子育て世代が多いんですけどね・・・。

佐:ただ慣れてくると、自分の居場所として来てくれる子がいるんですね。親でもなく、先生でもなく、近所の大人に会うって感じで。本を読むのも大事ですが、そうして来てくれるのも大事だと思っています。

前:佐々木さんは子どもたちが来ている時はどうしているんですか?

佐:小学生だと自分で読めるので、そういう時は私も本を読んでいたりして、まだ本が読めない小さい子だと読んであげたり、おはじきとかで一緒に遊ぶ時もありますね。

武:そういう話を聞くと、一人一人と関われる大切さがあるのかなと思います。さっき、10人は来ないって言っていましたが、逆にそうして増えていってしまうと、その関わり方もできなくなってしまうのかなと思いますね。

佐:たしかに、それはありますね。たまに、ドドドってたくさん来る時があるんですが、それはそれで対応ができない感じもありますね。

前:滞在時間はどれくらいですか?

佐:小学生だと学校終わってから来るので、3時30分頃来て、だいたい30分から1時間くらいかな。

07

武:それでは、ちょっと角度を変えて質問しますが、多賀城という街、地域性をどう思いますか?

佐:(ちょっと考えて)うーん、そうだなぁ・・・私も含めて、発信が少ない街だなぁと思いますね。私も長谷川さんや多賀サポを通して、いろいろわかってきたように、ただ暮らしているだけではわからないことがあるなぁと思いますね。

前:いろいろな人はいるんだけど、なかなか見えにくいってことですかね?

佐:そうですね。いろんな人、いますね。だけど、見えにくい。

前:それが見えてきて、やっている側と求めている側が重なっていくとイイですけどね。

武:多賀サポでは、それは感じているの?

中:そうですね、発信したがっている人も、情報を欲している人もいますね。多賀サポもブログをやっているんですが、街のイベントとかでも載せると、すごいヒット数があがるんですよね。だから、もしかしたら、そもそもの情報が少ないのかなって思ったりもしますね。

武:多賀サポ自体にまずは来てもらいたいよね。

中:そうなんですよね・・・なので、コンビニとかスーパーとか、そういうところにもチラシとかを置いてもらっています。

前:それ、いいね。

中:佐々木さんも情報誌を見て、来てくれたんですよね?

佐:そうです。ハチミツ屋さんで見て、行きました。仕事している時は多賀サポさんを知らなかったんです。

前:そうなんですねー。ここに来る時は登録が必要なんですか?

佐:はい。震災みたいなこともあったので、親の連絡先も含めて、名簿がありますね。

08

武:今後はなにかやってみたいことはありますか?

佐:そうですね・・・とくに大それたことはないんですが・・・イベントはいつも冒険で・・・開いた年の12月にクリスマス会をはりきってやったのですが、2人しか来なくて、主人がサンタになって2階で待っていて、長谷川さんも読み聞かせで来てくれたんですが、大人の方が多いってことで・・・すごいショックで、イベント恐怖症になったんです。でも、いろいろ考えていても、仕方ないって思って、またやって、次の年のクリスマス会は10人くらい来て、ちょっと勇気が出てきて、また次のイベントも企画するようになって・・・年に何回かイベントをやりたいなって思います。でも、やはり淡々と開け続けることが大事かなと思います。大それた夢では、小学生が大人になって、自分の子どもが生まれた時に来たら「まだちいさいおうちあったの!」というのが一番の夢ですね。