お話:メアリーコリン/阿部理美さん
聞き手:Book! Book! Sendai 武田こうじ、前野久美子
2017年4月10日インタビュー
仙台の中心部からちょっと外れた街の中にこっそりと、絵本のブックカフェが登場しました。今はまだ、こっそりだけど、ゆっくりと町並みに溶け込んでいって、道行く人が中を覗き、ちょっとドキドキしながら入ってきて、絵本をめくりながら、自分の時間を楽しんでいます。
カフェをつくったのは阿部理美さん。Book! Book! Sendai(以下、B!B!S)のスタッフでもあって、なんと、B!B!Sの企画「ブックカフェ講座」の受講生でもあります。そんなわけで、ぼくたちとしても、このブックカフェの誕生はとてもうれしいのです。
その辺りは、ぼくより前野さんの方が熱く語ってくれると思うので・・・前野さん、一言お願いします。(武田)
阿部さんとは2010年のB!B!Sが主催したブックカフェ講座で初めてお会いしました。受講生からどんなお店をやりたいか考えてもらったとき、阿部さんはとても具体的だった記憶があります。たいてい開業講座をやっても実際にお店を作る人は少ないなか、阿部さんはその後B!B!Sのスタッフになって、ときどき会っては経過を聞くと、仕事を辞めてからはカフェでアルバイトをしたり、イベントに出店したりして、着実に実現へ向けて進んでいるようでした。なんというか、阿部さんは外から見た感じは柔らかで控えめなイメージですが、意志の強い方だと思います。それでとうとうお店をオープンしたと聞いて、他人のお店なのにやったーと万歳したい気分になりました。阿部さんのつくったお店は、看板からコーヒーカップ、並んでいる本までこれしかないという感じで、もうずっと前からそこにあったような自然な佇まいのお店でした。いろいろと紆余曲折あったと言うけれど、阿部さんがお店をやることは自然に決まっていたことなのでしょう。メアリーコリンと阿部さんは似合っています。そう感じつつも、これまでのお話を聞いてみました。(前野)
前:いつ頃からお店をやりたいと思っていましたか?
阿:B!B!Sのイベント・・・stock/吉岡さんたちのブックカフェ講座・・・に行くちょっと前だと思います。
前:最初からブックカフェを開きたかったのですか?
阿:ブックカフェをというよりも、本に関わる仕事をしたいというのと、カフェの仕事をしたいというのがあって・・・それを両方叶えるとなると、ブックカフェだと思ったのです。塩竈の図書館で働いていたので、本に関わる仕事はしていました。カフェとなると、いつからしたかったのか、はっきりはしないのですが、B!B!Sのブックカフェ講座を受けに行った時はそう思っていましたね。
前:図書館の仕事は何年やっていたのですか?
阿:開館準備室の時も入れると17年かな。出たり入ったりしながらですが。
武:そんなにいたんですね!
前:図書館の仕事はどうでしたか?
阿:楽しかったです。周りの方に恵まれて、良い職場でした。あらゆる方に必要な情報を提供できる公共図書館という施設は、なんていい施設なんだろうと思っていましたし、仕事としてやりがいも感じました。
前:図書館の仕事を極めようとされていたんですね。
阿:そういうつもりではがんばっていました。良い図書館員になりたいと思って。
武:図書館の仕事のやりがいというのはどんなところですか?
阿:あのぉ(考えながら)・・・利用者の人がきて、なにかを探している・・・それに一所懸命応えるというのが・・・当たり前ですが、やりがいがあり、楽しかったです。なんていうか・・・役に立っている感じがあるというか。
前:図書館の仕事の中で、本に対しては、どうですか?
阿:そうですね・・・。本、そのものを考えるとどうなんだろう・・・。
前:本、そのものというより、人との関わりの方が大きかったのでしょうか?
阿:自分の好きな一冊の本があっても、図書館の仕事の中では、それよりも全体を把握して利用者に伝えていくということが大切でした。図書館の仕事は本好きだから働くというのとは違うと思っていました。個人的には、本に触れた時の手触りとか、めくっている時の感じとか・・・そういうのが好きで、本に触っていると不思議と落ち着く感じがあって。そういうことも含めて、図書館の仕事が好きでした。
前:うんうん。
武:ちょっと気になるのですが、図書館のお仕事って、とても忙しくしているイメージがあって・・・みなさん大変そうな感じがするのですが、理美さんの話だととても良さそうで・・・街の図書館というのは、その街の雰囲気にも比例しているのですかね?
阿:街の大きさとかは関係していると思いますね。あと、私たちは開館前からいたので、どうしても思い入れができましたよね。なにも入っていない棚に本を入れていくというのに立ち会うというのは、なんとも言えないものがありました。
武:そんな中で自分のお店を作っていきたいという流れになるのはどういう感じだったのでしょうか。
阿:それはいくつかありますが・・・まずは絵本のなかにいたい、絵本のなかで暮らしていたいというのがあって・・・。
武:でもそれは図書館でもできるのではないですか?
阿:うーん、仕事を続けていると、それだけではなくなってきますからね。自分のイイと思うことだけではできないし、やりたいことだけやるわけにもいきませんから。
武:このままではみたいな・・・感じがあったのですか?
阿:働いていると、時間の大半をそこ(職場)に費やすから・・・残っている時間は少ししかなくて・・・自分のやりたいことを思いっきりやってみたい・・・もしかしたら、その気持ちだけかもしれません。
武:ブックカフェ講座に出た時はどう思いましたか?
阿:やっぱり、楽しそうだなって思いましたよね。
前:そう思ってもらえたのはよかったです。吉岡くんはけっこうシビアなことを言ってましたが。
阿:それも楽しそうって思いました。
前:どんなところが?
阿:一つ一つにすごいこだわりがあって・・・こんなお店あるんだって驚いて・・・でも、それがとても楽しそうに思えたんです。
前:なるほど。じゃあ参加して、ますますやりたい気持ちになれましたか?
阿:はい。
武・前:おぉー。
前:これは今日のポイントだね(笑)。B!B!Sのブックカフェ講座を受けて、良かった!って(笑)。
武:ほんとだね(笑)。でも、それで、けっこうできないと思ってしまう人もいますからね。こんなにこだわってはできないって。
阿:だって、それが自分のやりたいことだったから。自分のいいと思うモノ・コトだけでできている空間って、いいじゃないですか。
前:ああ、そう思えるのは、お勤めしていたというのも大きいかも。で、実際に動きだすのはそこからちょっとかかるわけですよね。
阿:そうですね。現実的には、仕事をすぐに辞められるわけではなくて・・・。
前:それは仕事のポジション的なことですか?それとも、家計的なことですか?
阿:家計的なことですね(笑)。時期を待ちました。
前:なるほど。震災の影響もありましたか?
阿:そうですね。たしかに、それもありましたね。(職場が塩竈だった)
前:話がちょっと戻りますが、ブックカフェ講座を受けて、B!B!Sのイベントも手伝ってくれたんですよね?
阿:だって、講座を受けた人は(イベント当日)サンモール一番町に本を持っていって、カフェの店員もするっていうのが条件だったんですよ。
武:えっ、そうなの?
前:そうだった(笑)。
阿:講座に行く時は、そのイベントに行かなきゃいけないっていうのもわかっていなかったんですけどね・・・。
前:詐欺みたいだね(笑)。
武:ほんとそうだ(笑)。
前:まぁ、実践も大事ということで。
阿:行って、自分の棚をちょっと作ればいいのかって思っていたら、なんか、エプロンをつけられて(笑)、いきなりカフェの店員になってしまったんです。そんなつもりじゃなかったから、エプロン事件はほんと、衝撃でしたよ。
前・武:ヒドイね(笑)。
武:でも、無理やりな感じになっちゃいますが・・・ぼくたちとしては、B!B!Sを手伝ってくれていたメンバーで、ブックカフェ講座を受けてくれたメンバーの理美さんがお店を出してくれたのは、感慨深いものがありますよ。本人は嫌かもしれないけど(笑)。
阿:そんなことないですよ。そう言ってもらえると、すごい嬉しいです。
武:お店できるのが待ち遠しかったんです。
阿:でも実際にやると決めてから、こんなに時間がかかるとは思わなかったです。
武:なにがそんなに大変でしたか?
阿:物件選びですね。
武:どれくらい見たんですか?
阿:30くらいです。
前:最初は塩竈で考えていた?
阿:多賀城とか、七ヶ浜とかも考えていましたね。
前:そのエリアだったんですね。
阿:はい。とくに塩竈近辺で探してはいて・・・その中で、塩竈の物件でイイものに出会えて・・・ほとんど決めていたのですが、突然ダメになってしまって。まるで失恋。・・・それで、かなり落ち込んでしまいました。
前:そうでしたよね。
阿:そうです。その傷心中に知り合いからここの話があって、仙台は考えていなかったのですが、そんな時だったので見に来て・・・人がたくさん歩いていて・・・あれっ、イイかなぁと思ったのです。
武:お店をやっているお二人に訊きたいのですが。物件ってどうやって決めるんですか?スピリチュアルじゃないけど・・・なんか、閃くものがあるんですか?
前:笑
阿:そうですよね。探している時はどうやったら決められるのかなって思ってましたよ。
武:何件くらい見たら、わかってくるとか・・・そういうのってあるのかなって。
前:うーん、でもやっぱ運というか、出会いだからねぇ・・・100%理想の物件なんてないから。2つ3つ候補があったら、決めてしまうしかないよね。あんまり時間かけていると・・・開業なんてやみくもな熱だから。その熱を持続させるのは大変。迷っている間は無給状態が続くわけだし。
武:師匠からそういうことは言われた?(笑)
阿:そういう指導を受けました(笑)。
武:そして、ここに出会ったわけですね。
阿:ここは人がいっぱい歩いていて・・・なんていうか、前のその失恋した物件の時は建物自体がとても好きで・・・だけど、場所は奥まっていたから、そこに来る人を想像していなかったのかなと思って・・・ここに来たら、お客さん像が見えてきて・・・。
前:どんなお客さん像があったんですか?
阿:女性が一人でも入ってこれる感じというか・・・働いていて、がんばっていて、子育てもしていて、そういう女性が立ち寄ってくれて、また明日もがんばろうと思ってもらえるお店にしたいって思っていました。ここに来た時に通勤の人たちがたくさん歩いていて、この人たちが入ってきてくれたらなって思ったんです。
前:それは、理美さん自身が勤め人で子育てもがんばってきて・・・前に探していた時はその感じが強かったんじゃないかな・・・自分が行きたいお店を選んでいたんじゃないかな。ここにきて、初めてやる側として、お客さんを迎え入れる場所を見つけられたんじゃないかな。
阿:そうですね。ほんと、そうだ。
武:ここを見てからはどれくらいで決めたんですか?
阿:去年末に初めて見たので・・・。
武:早いといえば早いですよね。
前:内装なども自分でやったんですよね?
阿:プロの力も借りましたが、ペンキ塗ったり、床を剥がしたり、タイル貼ったりは自分でしました。
前:すごいよねー。
阿:楽しかったですよ。
前:私は根気がなくてできないな(笑)。
武:(店内を見て)これを自分でやるのはすごいよね。
前:仕事をやめてからは、2年くらいですか?
阿:はい。でも、はじめ物件探しはそんなに大変じゃないと思ったんです。久美子さんからいろいろ見ておいた方がいいよって言われたんだけど、なかなか条件が合うのはなくて、ほんと、大変だなと思いました。
武:実際にオープンして、どれくらいですか?
阿:今はまだ、正式のオープンではないかな(笑)。
武:そうなんですか?(笑)
阿:えっと、3月15日から3月いっぱいはプレオープンで、4月1日から一応、始めています。
武:慎重だなぁ(笑)。さっき、自分のやりたいことを思いっきりやりたいって言っていましたが、今はどれくらいできていますか?
阿:そうですねぇ・・・今はスタート地点ですね。カフェの居心地の良さもこれから作っていきたいのですが、本に関しても、最低限自分のいいなぁと思うものを揃えている感じで・・・その中でなにか特色というか、極めていく部分を作っていかないといけないと思うんです。
前:メアリーコリンの本棚は「こういうの」っていうのを作っていくわけですね。で、それはお客さんと一緒に作っていくんですよね。店主だけで作っていくんじゃなくて、相互作用で作られていくんだよね。
武:そうなんですね。たまには勉強になること言うね(笑)。
前:(笑)
阿:今はまだたくさんのお客さんが来ているわけではないけど、「絵本のカフェができた」ってことをどこかで聞いて来てくれる方もいて、そういう方は棚を見て、いろいろ感じてくれて、そういうのはうれしいですね。
武:まさにお客さんが作っていくという話になりますね。
阿:はい。
前:棚の作り方はいろいろ変化していきそうですね(新刊の絵本と古書の絵本がある)。なにか・・・おすすめの本にコメントをつけたりしてもいいのかも。
阿:なるほど・・・でも、ポップとかが貼ってあると、くつろぎ感が減少してしまうような気がして・・・。
前:たしかにそうなんだけど・・・なんて言うのかなぁ・・・(考え込みながら)ブックカフェの本というのは、売り物に見えにくところがあって。売りたいという気持ちは押し付けや嫌味にならなければもっと出してもいいと思う。あまり落ち着きすぎると消費力が落ちる気がします。まぁ、自分の店のことも含めて言っていることですが。
武:なるほどねー。
前:消費って刺激っていうか、興奮みたいなところあると思う。例えば、うち(火星の庭)はお店も自宅も賃貸で家族3人が食べていかないといけないから、ちゃんとお金を落としてもらいたいというのがある・・・本音を言うと。だけど、所謂チェーン店のようなやり方はできないわけだから、どうしていけばいいか、いろいろせめぎ合いなんだけど・・・お客さんもお店に入ってきた以上はなにかを見つけて帰りたいっていうのがあると思うんですよね。だから、ちゃんとアピールしなきゃいけない部分があって、ここにある本を回転させたいのか、回転させたくないのか、その辺が見えてきた方がいいと思うんだけどなぁ。
阿:そうですね・・・回転させたいですね!
前:お金とものを動かすのが楽しいと思えるなら、それは全然不純なことではないんだよね。
武:たしかにそうかも、ですね・・・ぼくはお客としてになるけれど・・・最初は、正直、付き合いで行くから、それこそ何か買ってあげなきゃと思っているし、それからリピーターになっていくとまた違った買い物がしたくなっているというのはありますね・・・そういえば・・・火星の庭に行くと、いろいろ薦められていつの間にか買っちゃっているよ(笑)。
前:(笑)さわやかな押し売りって大事ですからね。
阿:それがまだ・・・できない(笑)。
武:もちろん、ここでのやり方を作っていく、というのもあるもんね。
前:そう、できれば買ってほしいって感じでね。
阿:そうですよね。自信を持って選書した本ですもんね。買って、家に帰って、読んでほしいと思いますよね。
武:それがさっき話した、自分ではなく、お客さんが作っていくというやつですね。すごく繊細なところですよね・・・自分のお店だけど、自分だけでは作っていけないというのは・・・。絵本カフェだけど、大人がくつろげるところにしていきたいというのもおもしろいですよね。
阿:そうですね。親子で来てくれて、本棚を見てくれるのも、うれしいけれど、仕事や子育てをがんばっているお母さんが一人でちょっと立ち寄ってくれて、落ち着ける時間を過ごせるというか、自分を取り戻す時間にしてもらえたらといいなぁと思います。
武:最後にお店の名前の由来を教えてください。
阿:MARY(メアリー)とCOLIN(コリン)は、児童書『秘密の花園』の主人公の名前です。『秘密の花園』は、親の愛情を受けずに育ち、心が傷ついている少女メアリーと少年コリンが、荒れ果てた庭を手入れして再生させるなかで、心も体も健康になり、生きる力を取り戻す、癒しと再生の物語です。この店に立ち寄られた方が、ほっと一息ついて、また明日がんばろうと思えるような、そんな場所になるといいなと思って付けました。
『秘密の花園』を読み返した時に、私の気持ちにすごくぴったりしたので、ずっと前から店名に決めていました。
◇
BOOK WITH CAFE MARY COLIN
カフェのある絵本屋 メアリーコリン
〒983-0803 宮城県仙台市宮城野区小田原1丁目9-28