ちいさな出版がっこう 第3回
テーマ【読者にどのように手渡すか】
9月30日(日) 14:00〜17:30
せんだいメディアテーク7F スタジオb
台風が近づく気配を感じながら
第3回目が開講しました。
●中山亜弓さん(タコシェ)●
東京都中野区、雑居ビルの一角にタコシェがあります。
10坪の店内にはところ狭しとミニコミやZINEが並べられています。タコシェという場所はそれらをつくる者が必ず行くミニコミの総本山として知られています。
個人の出版物を一般の新刊書店に持ち込んでも、なかなか置いてくれません。取次ぎを通さない直取り引きは、買い切りというかたちが多いので書店では敬遠されます。そんな直取り引きをタコシェでは引き受けてくれます。内容がよっぽどのもの(著作権にひっかかる、個人への誹謗中傷)でなければ、お店に置いてもらえます。そんな間口の広いタコシェだからこそ、ミニコミや同人誌といった個人の出版物が集まり、総本山と呼ばれるようになったのです。お店で取り扱っている本の紹介をしていただきました。
以下要約。
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「こけしの旅の本」…プリンター出力。ぴらぴらの紙を挟んだり、途中でページの大きさが変わったり手製本だからできる遊びがつまっている。
「なにものからの手紙」…長形4号の封筒にわら半紙に出力した小説が入っている。手紙形式の小説。タイトルは全8種類ある。
「未知の駅」…ページをバラバラに印刷所に発注。自分や仲間の手で綴じる。本文はプロの印刷なのに、綴じは小口が揃っていないなどちぐはぐな印象を持つ。
「kalas」…三重県津市を中心とした地域誌。「どうしたら雑誌を続けられるのか」「お金の工面はどうしたらいいのか」といった作者の悩みをものづくりに携わっている知人たちにインタビューする。しかし、このような悩みは活動することやものづくりをする上での普遍的な問題であり多くの共感を得ている。
「ritokei」…離島経済新聞。島を専門に扱うタブロイド紙型の雑誌。新聞としても雑誌としても読める。島のポスターなど付録も充実。
「ritokei」のように目的や読者層がはっきりしているものは、読者に届きやすい。しかし抽象的、個人的なものなど分かりにくいものほどちゃんとした説明がないと届かない。版形やページ数、作者は誰かといった情報や本の内容を客観的に説明する必要がある。マニアックなものをつくってもいい、ただ雑誌や本をつくる目的はそれらを知らない人に届けることである。かみくだいて、どう魅力的なのかを伝えることが大事である。
読者の設定(身内だけなのか、世界中すべての人なのか)と読者に手渡す方法(販売か配布か)はつくる時にも気をつけることだが、売る時にはさらに気をつけないといけない。「つくる時と売る時は段階は違うが繋がっている」とナンダロウさんがまとめた。
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私もこの間タコシェに行ってきました。
すれ違うのもやっと、という店内は紙質や厚さ、版形が異なる本であふれていました。読んでくれと言わんばかりの本、読みたいのならどうぞと隅にたたずむ本もあり、たくさんの本との出会いを楽しみました。講義の中で中山さんが、タコシェで買った本の感想を送り、それをきっかけにその後ご結婚された方がいらっしゃると話していました。「タコシェで出会った二人」と中山さんが嬉しそうに話していたのを思い出します。
私は先ほどタコシェでのことを「本との出会い」と書きましたが、本の先には必ず人がいるんですね。つくった人がいて、読む人がいて、「人との出会い」の場でもあるのだなぁと思いました。
続いて
●木村敦子さん(てくり)●
「てくり」は盛岡の生活・文化・伝統を特集に取り上げる地域誌です。発行元である、まちの編集室は「なんかやりたいね」と集まったフリーランスのライター、デザイナー、編集者で構成されています。普段の仕事のスタイルは依頼者から仕事を受けるかたちですが、自分たちが自由に好きなようにできることをしたいと始めたのが「てくり」だったそうです。そんな「てくり」の木村さんのパワフルな語りに力をもらいました。
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『出会い、タイミングは大事』
「てくり」5号の特集は「盛岡ノートをポケットに」。この特集が組めたのは、出会いとタイミングによるものだったと語る。全国紙の取材を受けていた時、その記者の奥さんがエッセイストとして名高い、木村衣有子さんだった。是非にと紹介してもらった。その頃ちょうど盛岡ゆかりの詩人、立原道造が書いた「盛岡ノート」が復刻された。立原道造は東京から結核療養のため、盛岡に滞在していた。そして同じように東京から来る木村衣有子さんが「盛岡ノート」を手にまちを巡る、これを特集にしない手はない、と思い立ったそうだ。
『場を持つ、ということ』
「ひめくり」という、まちの編集室がサポートしている店がある。東北に限らず書籍や食べ物、雑貨を取り扱っている。この店というかたちで、「てくり」に関する場ができたのには二つの背景があった。一つ目は、以前から特集に合わせたワークショップを場所を借りておこなっていた、ということ。二つ目は、まちの編集室が編集室と呼べる場を持っていなかったためだ。「編集室に遊びにいきたいのですが。」という問合せを受けるようになり、場を持つことの必要性を感じたそうだ。
場を持つことで変わったことは、震災後にたくさん取材を受けるようになったこと。目に見える分、取材しやすいのだろうと推測していた。そして「私たちは本を出し、売ることが目的」と語り、イベントを「ひめくり」の店主に回してもらい編集に専念できるそうだ。また、「てくり」を読んで盛岡に来た人が立ち寄れる場となっている。
『モリブロ、というイベント』
まちの編集室と知人で実行委員をつくり、盛岡のまちを舞台に本のイベントを立ち上げた。普段、面と向かって読者とやりとりをすることがないので、どんな人が読んでいるのか分からなかった。しかし、モリブロではそれをリアルに体験することができた。そして出店した店同士の繋がりが生まれ、開催して良かったと感じたそうだ。ゲストを呼んでの飲み会も楽しみの一つだと語る。
モリブロは始まったばかりのイベントで何年か続けてみないとどうなるか分からないと語り、とりあえず3回はやることにしている。
一箱古本市の会場となった桜山神社の参道(昭和レトロのいい通り)の再開発計画があった。まちの編集室は中庸の立場を取りつつも、桜山の特集を組んだり、一箱古本市の会場に選定した。地域誌を出す上で、このような行政に対する住民運動のからみは避けては通れない。いい面でもあり、悪い面でもある。しかし、そこは「てくりの人」として中庸な立場から、編集意図でもある「良さのアピール」をしていく姿勢は変えないと語る。
『熱意』
読者に手渡す時に大事なことは「熱意だ」と語った。自分がつくったものを人に会うたびに、アピールしていくこと。東北人には苦手な人が多いが、とりあえず「こういうのやってます。」と前に出ることが大切だ。あとは名刺をつくること。きちんと住所を入れ、自分へ繋がりやすくする仕掛けを整えること。名刺、Web、ツイッター、フェイスブック等、個人発信のツールが昔と比べたくさんある。これを駆使すること。そしてできればレーベル名をつけるといい。個人名で活動するより世間からの信頼感が増す。
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以上が要約になります。
メディアをつくると二つのタイプに分かれるそうです。外に向かって発信しつづける人と内面を発表して満足する人。「ちいさな出版がっこう」は12月が最終講義となりますが、がっこうを卒業してもなにかつくり続けてほしいです。
ゲスト講師のお話が終わった後は受講生に出された宿題の発表をしてもらいました。
座学の講義は今回で最後、次回からは実践編になります。
次回までの宿題は「1,2ページでもいいので本番に近いかたちでつくってくる」です。
(テキスト:村上美緒)