今年で5回目の開催になる石巻の一箱古本市。主催はこの後、対談がUPされる「石巻まちの本棚」です。
対談の前に・・・一箱古本市に参加してきました。
さすがに5回目ということで、出店者も参加者も慣れているというか、イベントの楽しみ方を知っている感じで、震災後の街でなにができるか、なにが必要かをスタッフがいろいろな視点で考え、実践しているのが伝わります。今回も本を探しながらにして、街全体を味わうことのできる配置など、いろいろと考えられていました。
また、いろいろな形でイベントに関わっている人がいました。
(↓写真は移動書店のペンギン文庫と朗読の流し(!)です。
この後の対談を読んでも思うのですが、今までやってきた実績はやはり大きく、また現地のスタッフと東京のスタッフの視点がうまくブレンドされているところが魅力だと思います。前回UPした南三陸ブックスのみなさんとはそのあたりがイイ意味で違っているのかなと。
南三陸ブックスの方は、まず自分たちが集まる場をつくろうとしていて、規模も活動ペースもそこが基本になっていると思いました。なので、呼びかけ方もまずは南三陸の方たちに向けています。対して、石巻まちの本棚の方はイベントや活動の視野をなるべく広く持とうとしていて、いかに外に向けて発信していけるかをポイントにしていると思いました。もちろん、これはどっちがイイという問題でもなければ、あくまでぼくの感じたところでもあり、正直に言って、どちらにも魅力を感じています。
というのも、震災後の街ではさまざまなイベントが企画され、さまざまな形での活動が続けられています。それは、今まであったものが欠けてしまって、これからどうしていくか、というスタートがあり、そこから現地の人たちと新しく関わってきた人たちがどうつながっていけるか、という問いかけがあります。これはいろんなところで課題としてあげられていることですが・・・そうした場に関わっていくと、今までの過程とこれからのことを、お互いの立場を尊重したり、受け入れたりしながら、対話し、整理していくことの難しさと大切さを考えさせられるからです。
B!B!Sはこうしたこともふまえ、いろいろな団体や活動を紹介しながら、そこでの対話を街の大きさやコンセプトなどが全然違う場にあえて届けていこうと思っています。
それでは、今回は石巻まちの本棚と前野久美子の対談をお楽しみください。
武田こうじ
◇ ◇ ◇ ◇
石巻まちの本棚インタビュー
お話:石巻まちの本棚/勝邦義さん、阿部史枝さん
聞き手:Book! Book! Sendai 前野久美子
2016年6月25日(土)
─『石巻まちの本棚』としての成立ち等はいろいろな場でだいぶ話されていると思うので、今日は現実的なところをお聞きしていきたいと思いますが、石巻または、他の場所で、もし本屋あるいは本のあるスペースを作っていこうという人がいたら、『石巻まちの本棚』の経験がきっと参考になると思うので・・・まず今のシステムを教えてください。
阿部:土日月と、今は、一箱古本市もあるので水曜の夜も、開けています。夜やっていると、仕事帰りの人も訪れます。土日は来れないという人もいるので、7月以降も夜やっていくのもいいかなと思っています
─来る層は、常連さんが多いですか?
阿部:常連さんもいます。あと、土日開いていて・・・街中にあるという事で・・・旅行者の方も多いです。知らないで入ってきて、『ここは本屋さんなの?・・・何なの?』みたいな感じの人もいますね。
─そういう時、なんて答えるんですか?
阿部:図書室みたいなものですって言ってますね。ここで読むこともできるし、貸出しもしてて、あと、今は(販売用の)古本も出してて、場所で分けてるんですね。なので「店内にある本はここで読んだり、貸出しをしていて、外に出ている本は販売してます」という風に言っています。旅行者の方も、意外とあがってきて本を読まれていきますよ。
─その時に店番してる人は、会話っていうか接客はどのくらいするんですか?
阿部:基本的に私はあまり話しかけないです。すぐ出て行く人もいますが、しばらく本棚を見ている人にも「ここで読めますよ」くらいの感じで。あと「石巻の方ですか」とか。
<ここで勝さんが合流>
勝:この間、大阪でマイクロ・ライブラリーってサミットがあって行ってきたんですけど。
─あっ、行ってきたんですね。
勝:はい。関西の本のあるスペースの方たちがたくさん集まっていて、互いのノウハウとかを交換したりするサミットで、そこで走り回ってる礒井(純充)さんって人がいて・・・東京六本木にある森ビルの文化事業「アカデミーヒルズ」を立ち上げた人ですけど・・・本がある小さいスペースをつなげまくってるっていうか。街なかに小さい居場所がいっぱいあるといいねっていう。そんな各地の本に関する活動を横つなぎしている人です。
─コミュニティスペース的な要素が大きいのかな。その役割として、本が有効、という感じでしょうか。今、まちの本棚は3年でしたっけ?
勝:そう、2013年にできたから。
阿部:丸3年です。
─作る段階で想い描いていた感じと、3年やってきて街の反応とかまわりの状況とかで見えてきたものなどもあると思いますが・・・最初は思ってもいなかった事などはありましたか?
勝:展覧会、企画展などをやるとは、最初、思っていなかったですね。
─展覧会を開催する効果などはありますか?
勝:あると思います。そこから足を運んでくれるようになった人もいますし。
─展覧会をやっている時とやってない時は違いますか?
勝:展覧会などをやっていない時は、結構のんびりしてますね。
─石巻の街が、ちょっとの間にまた活気が出てきてますよね。この近くにも建設中のマンションかな・・・できてきていますよね?
勝:公営住宅ですね。あと、高齢者の施設と地域の特産品、生活用品を集めた生鮮マーケットができる予定です。
─石巻って、インディペンデントというか、個人がアクションして何かできそうな町という気がします。
勝:うん、うん。
─そこが仙台と違うような・・・仙台だと無理だけど宮城県のほかの街の石巻とか気仙沼とか塩竈とかだったら可能かも・・・というのが、あると思うんですよ。そして、そういう時に何が一番難しいのかと言えば、もちろんお金は一番ネックなんだけど・・・それは分かりきってるから置いといて、あとなんでしょう・・・難しいこと、問われることはなんでしょう?
勝:(しばし考えて)…本力(ほんりょく)じゃないですか。
─本力?なに、本力って?(笑)
勝:(笑)本のちからを信じるところから始まるんじゃないかと思います。
本が人をつくり、その人たちがまちをつくるという、直接的ではないけれども、人を動かす力や人に力を与えてくれる。たかが本ですが、されど本。長い目で本がある場所の可能性や本のもつチカラを突き詰めていくのが重要なのではないかと思います。そうすると、地域に本がある場所があってよかったという状況を、本を読まない人まで実感してもらい、広く知らしめるということにつながります。それはある規模のまちの方がやりやすいかもしれません。
─いま、本のあるスペースを作ろうと動いている方がけっこういるんですが・・・やるのは決めていても、オープン寸前で止まってしまうことがあったり。
阿部:何でだろう。
─本が好きで始めようとしているんだけど、運営していく事と本が好きという事は別の問題で。スペース作りっていうのは、不透明で未知の事で、誰が来るかわからない、どうなるかわからない、ということに向き合っていくことだから、店舗の物件選びでも、複数の物件を比べた時に、判断の基準が作れない・・・そこが、見てて難しいのかなって感じる。そういうところを超えられると、いろいろできると思うんだけど・・・。
勝:石巻は小さい町だから打てば誰か響くだろうっていうのはあります。まぁ小さい町って言っても15万人いるから、そんなに小さくもないですけどね。
─まちの本棚でものごとを決めるっていう時にどういう合意の仕方で決めてますか?
勝:月に一度以上運営委員会を開催し、東京からの運営メンバーもインターネットを通じて参加します。そこで企画の立案から、実行までに必要なプロセスを考えていきます。 基本的には発案者が企画の推進に関しては、引っ張っていくことになりますが、実現にむけて役割分担します。
─本は、仕入れできそうなんですか?
勝:今のところ、東京にいる丹治さん、南陀楼さんに頼ってて・・・(丹治史彦さん・南陀楼綾繁さん=「一箱本送り隊」の中心人物。丹治さんが「隊長」)、寄贈本に多くを頼っている状態もあるので、どうなのかなって…
─やるなら買い取りしないといけないですよね。
勝:本が仕入れられないと先細りですからね。
─ただそうなると商売色が強くなるから、まちの本棚として、どこまで本屋になるのかっていうのが問われちゃうと思います。本屋なのかそれともそうではないコミュニティスペースの公共性、公共施設の方へ行くのか・・・
勝:小さい経済で回していく事業体であるべきだとは思っていて、で、公益的な部分で皆からお金を集めるっていうのは間違いない部分ですね。
─じゃあ、土台は事業体で、ちゃんと成り立ってる、採算が取れてるっていう。
勝:取りたい。
阿部:取りたいですよね。
勝:『出』も少ないけど、やっぱり『入り』も少ないので、厳しいですよね。ひと月のランニングコストが10万円なんですよ。家賃、人件費、お店番の手間賃も含めて。
─ネットでの通販を行なえれば、成り立たせられますね。
阿部:ただ、問題は選書ですよね。
─イメージしている、先行する例などはありますか?
勝:貸本屋はいいな、と思いますね。現状は、登録制で、最初に登録料いただくんですが、貸出しは無料。
─それは市外の人でもいいんですか。
阿部:はい。
─返却は郵送でもいいの?
阿部:はい。
─ちょっと俯瞰してみると、まちの本棚は、一番に何がしたいのか、何をメインにスペースを作っているのか、見えにくいかもしれません。
勝:石巻において、本文化、出版文化の底上げをしたいというのがあります。それがあるから、『本の教室』(2015年スタートのシリーズ企画)を始めたりしています。石巻全体で底上げがされるのであれば、うちが引き受けなくてもいい部分もあって。例えば、『本の教室』でのブックカフェ講座を受けて、いろいろな人が自宅の一角をブックカフェにしたりとか・・・そんなのが街なかで3つも4つもできたら、それはそれでまちの本棚の目標は達成できるかなと思います。
─それは、面白いですよね。
勝:あと、石巻の事を書こうとしている人は応援したい。作家になりたいっていう人は結構いて、図書館より自由度があるまちの本棚が応援できればイイかなと思います。
僕的には、まちの本棚が大きくなっていく事よりは、年間120万円の維持費で回しながら、公益的なことができれば、それがいいかなというのがあるんです。
─うん、うん。
勝:あと今やろうとしているのは、書架貸しの事業。町の小さい本がある場所に、本を提供するっていうのを、企んでいるんですね。
阿部:書架貸しは、需要ありますね。話すと『いいですねー!』って言われます。
勝:例えば病院の待合室。結構石巻って開業医多いんですよ。総合病院に行くよりも、個々の開業医に行って、何時間も待って診察するんですよね。そういうところに月契約で書架貸しをしたい・・・あとはカフェとかも。
─本って、マニュアル化できないっていうか。大事なのはお客さんがここに来ていい気分になることだと思います。
阿部:私、本当に本読んでこなかったので…。
─それは自分のペースで本と仲良くなっていけばよくて・・・ディープな人も周りにいっぱいいるわけだから・・・力を借りて、病院の待ち合い室とかの書架を作って、それで力を借りてやっているうちに、自分も力を付けていけばいいんだと思います。あと、本も一回納品したら終わりじゃなくて、やっぱり傷んでくるから・・・定期的に手入れしないとね。史枝さん、勝さんの選書棚はないんですか?
勝:ないですね。
阿部:ないけど、最近は、利用者さんとか、スタッフの人とかに箱一つ分作ってもらったりしています。作ってくださいっていうと、やってくれる人もいます。
─今日、南三陸ブックスのオープンの日なんですよ。
勝:そうそう。
─どうでしょうか
勝:前身の『さんさん館』の図書館が、時が止まったままでしたから、動き出すといいですね。
─そうして新しい動きが出ていく中で、成り立たせていくのは大事だけど、採算が取れてるかどうかだけで語られたくないな、っていう気もどっかにあって。
勝:そう、そうです。
─で、さんさん館みたいな話聞くと、絶対あった方がいいじゃないですか。必要もあると思うし。ビジネスにならなくたってその場所がある事がどれだけ意味があるかっていうのはね・・・収益だけで測れない。あまりいい条件じゃない所でやるっていう事とどうやってるのかっていうのを皆聞きたいんじゃないかな。
勝:石巻は、街なかに本屋が無くて、本の話をしたい人は大勢いると思うんだけど・・・そういう人の力を借りて、自分達の手で自分達の場を作っていくということができればいいのかな、と思いますね。
─あと、やっぱり、やってて面白いからやってるんだよね。
勝:うん。
─その面白さって、言葉で言えます?
勝:本を読むことで世界が広がるという感覚は誰でも経験したことがあるかもしれないけれど、その感覚を誰かとシェアすることで、さらに世界が広がるみたいな感覚が面白さにつながっていると思います。
阿部:しみったれた話していいですか?(一同笑)私自身はまちの本棚どうこうよりも自分のことでいっぱいいっぱいで、最近やっと、周りが見えるようになってきて…良かったです(一同笑)。
阿部:私は本当に本読まなかったので・・・震災の後に南陀楼さんにインタビューされた時、震災後どんな本が読めたかというような質問にも、全然、読みたい本が無かった、音楽も、聞きたい音楽が無かったと答えていて・・・。でも、本が無いと生きていけない、音楽が無いと生きていけないっていう友達もいるから、そういう人はこういう時何が欲しいんだろうとは思ったりして・・・だけど、私自身は、何もいらない。ってなってたから、出てこなくて・・・。だけど、まちの本棚に関わるようになって、本とか教えてもらってくると、単純に知らなかっただけで、本当は私こそ、本があると良かったんだろうなって思ったりしました。
─なるほど。
阿部:あと私が高校生だった時に、まちの本棚みたいな場所があったら、どうだったかなあ、なんて思ったりもします。
─それ、すっごく大事なことじゃない?よく「潜在的な読者」って考えるんだけど・・・本が好きになる可能性があるのに、出会ってないだけっていう人って結構いると思うんだよね。でもそういう人はネットでも検索しない。だけど、イベントや場所の存在によって、そういう人が本と出会っていければいいなぁと思っていて・・・だから、史枝さんの様な存在が大きいような気がします。
【リンク】
石巻まちの本棚 webサイト
http://bookishinomaki.com
ISHINOMAKI 2.0 webサイト
http://ishinomaki2.com
一箱本送り隊 webサイト
http://honokuri.exblog.jp
【メモ】
webサイト「地元びいき」にて
石巻まちの本棚のスタートの経緯などが
紹介されています。
↓ 該当記事はこちら
http://jimoto-b.com/3950