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INTERVIEW
本って、ときどき
不思議な出会いがあるというか、
物理的なものが人から人に
渡されていくというところに
ドラマが生まれることが
あるように思います。
MEMEさん/キャシーさん

Book! Book! Sendaiの新しい企画(連載)『せんだい本の生活史』では、いろいろな方の本との出会い、本との関わりをきいていき、人と街と本のことをアーカイブしていきます。今回は、セクシャルマイノリティに関する活動をつづけているMEMEさん(1980年生まれ)とキャシーさん(1977年生まれ)です。おふたりはイベントなども企画していて、ぼくも関わらせてもらったことがあります。その時にもお話はさせていただいていたのですが、今回はおふたりが読んできた本の話から、すこし深くおふたりの人生にふれることができたと思っています。(Book! Book! Sendai/武田こうじ)

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MEME:子どもの頃に好きで、読んでいた本で、覚えているのは実用的なものなんです。一番印象に残っているのが『むすび』という絵本で、いろいろな結び方が書いてあるんです。その絵本は、幼稚園にあったのですが、すごい読んでいた記憶があります。
それで、実際に紐でやってみるのですが、不器用でできないんですよね。だけど、いろいろな結び方をやってみたいんです。きっと役に立つはずだと思って。
それと、もう一つ思い出したのが『どんぐりだんご』という本で、どんぐりを拾ってきて、ゆでてつぶしてお団子を作って食べるというもので、これも落ちているどんぐりを加工して食べることができるというのに、惹かれたんだと思います。
そうした実用的なものが好きだったのは、根本的に人に頼らないで生きたい、生きなければならないという気持ちがあったんだと思います。お嫁さんになって誰かに食べさせてもらうみたいな考え方に馴染めなかったんですよね。だから、落ちているどんぐりを拾って食べて生きることは、子ども心に自立できるのではないか、と考えたのだと思います。

小学校低学年の時からそういう実用的な本、工作の本なんかを読んで毎日なにか作っていました。不器用なので、うまくできないけれど、チャレンジしたいんです。覚えているのが、手紙の重さをはかるレタースケールをつくったことです。猿が腕を伸ばしているデザインのもので、伸ばした腕の先端に洗濯ばさみがつけてあって、そこに手紙を挟んではかります。1円玉が1個1gなのでそれで5gのラインとかを作って、手紙を出す時に使っていました。 ずっとそういう実用的なものが好きなんです。お土産屋さんでキーホルダーを買ってあげると言われたら、温度がわかるとか、そういうなにか機能がついているものを買うくらい。幼稚園の頃からそんな感じでした。人魚姫とか超定番の絵本も好きだったんですけど、一方でそういう実用的なものが好きだったんです。

植物とか鳥の図鑑も好きで見ていました。とくに『野鳥』という図鑑が好きで、いまでも時々見ることがあります。
それほど料理をしていたわけではないのですが、料理の本も好きで読んでいました。あと学生の時に裁縫にハマって、当時ゴシックロリータとか流行っていたので、小物とかブラウスとかを作ってみたりしました。不器用だから、うまくできないのですが。『フィーメイル』というソーイング雑誌を図書館でよく読んでいましたね。ストリートファッション雑誌の『KERA』も買って読んでいました。それと『ラジオライフ』という電子工作のちょっとマニアックな雑誌があるんですけど、それも実用的で好きでしたね。

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キャシー:ぼくは子どもの頃は仙台市の萩ケ丘に住んでいたのですが、近くにおてんとさん文庫があって、そこに入り浸っていました。お母さんたちが集まって、人形劇だったり、読みきかせをやったりしていて、楽しかったのを覚えています。母親も読みきかせをしていました。自分で読むのも好きで、『ぐりとぐら』とか『すてきな三にんぐみ』とか、定番の名作みたいなのをいっぱい読んだ記憶があります。5年生で引っ越しをするのですが、その時まで行っていました。
仙台市市民活動サポートセンターで働いていた時期があるのですが、その時に、当時読みきかせをしていたお母さんたちが来たことがあって、そこで再会できたんです。お互い覚えていて、うれしかったですね。

幼稚園の頃はロボットものも好きなんですが、お姫様系の話も好きだったりして、かっこいいとかわいいがどっちもありました。男の子とゲームでも遊ぶけど、シルバニアファミリーでも遊びたいみたいな感じです。
マンガは『コロコロコミック』を読んでいて、『ジャンプ』に載っていたものは、単行本で読んでいました。『ドラゴンボール』『スラムダンク』『キン肉マン』『北斗の拳』とかですね。

MEME:わたしは『ジャンプ』と『なかよし』にハマれなかったのを覚えています。『コロコロコミック』と『りぼん』は好きでしたね。小学校低学年の頃、『おぼっちゃまくん』はちょっと下品でついていけないな、と思いつつ読んでいて、『つるピカハゲ丸』はすごい好きで、単行本も持っていました。あと『ドラえもん』とか『あさりちゃん』も単行本を買ってもらっていました。
わたしは、『なかよし』をスタイリッシュに感じていて、『りぼん』の方が親しみやすく感じていたんですよね。『りぼん』は当時『ちびまる子ちゃん』がとても人気でした。わたしは『お父さんは心配症』『姫ちゃんのリボン』『ママレード・ボーイ』『有閑倶楽部』などが好きでした。
それと、もう少し大きくなってからは『花とゆめ』を読んでいました。『花とゆめ』は当時、近所ではあまり売っているところがなかったんですが、町内の夏祭りのバザーで並べていた人がいて、いわゆるバックナンバー的なものですね。そこで買って、読んでハマっちゃいました。それは小中学生から高校生の頃にかけてですね。『なんて素敵にジャパネスク』『動物のお医者さん』『ぼくの地球を守って』『天使禁猟区』などが大人気で、わたしも夢中になって読んでいました。『サディスティック・19』というギャグマンガも好きでしたね。

マンガはお小遣いで買って読んでいて、小説や実用書は図書館で借りて読んでいました。マンガは図書館にはありませんから、買って読むしかなかったんです。中学生の後半に自転車で行けるところにブックオフがあることを知って、マンガが安く買えるようになって、通いましたね。

小説もかなり読んでいました。推理小説にハマっていました。 中学生の時に、新本格ミステリというのがブームになっていて。綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖などがどんどんデビューした時期で、図書館に講談社ノベルスがあると借りて、巻末に新刊紹介があるので、それを辿って、また借りて読むという感じでした。あとはSFものですね。新井素子はほとんど読んでいます。
いまにつながるとすれば、法廷もののミステリも好きでした。『赤かぶ検事奮戦記』シリーズを読みました。作者の和久峻三は弁護士で、その経験を生かして書いているので、犯人を捕まえて終わりじゃなくて、法廷でどんな罪が適用になるかという専門的な話が出てきて、おもしろかったんです。今、セクマイ活動の中で、結婚や家族に関する法律について学んだり考えたりする企画をやっていますが、そういう、昔読んだ本が考え方のベースになっているところがありますね。

キャシー:中学校の時は本をあまり読んでいません。いま思うと、恐ろしいくらい勉強をしていました(笑)。 中学校の時は勉強さえしていればいいんだ、と思っていたんでしょうね。仙台から田舎に引っ越したので、みんなとうまく付き合えない感じだったので。
がんばって高校に入ったのですが、あまり学校に行かなくなるんです。家は出るのですが、学校の近くに川があって、そこを行ったり来たりしていました。いろいろなことを考えていました。自分のアイデンティティはどうなっているのだろう、と。子どもの時とはちがう孤独感がありました。友だちも全然いなかったんです。小中高ゼロですね。
それで、3年生に突然、東京の芸大に行きたいって思って、美術部に入ります。もちろん、そんな時期にそんな風に思っても受かるわけはないのですが、結局ちがう東京の大学に行くことになりました。

大学生になったら、友だちもできて、一緒にサークルを立ち上げたり、他の大学のサークルの人とつながりができたり、はじめての一人暮らしだったので、楽しく、わいわいやっていました。だけど、みんなと騒いでいても、どこかちがうなぁと思っている自分もいて、やっぱりいろいろ考えてしまうんです。その時に読んだ、鴻上尚史の『孤独と不安のレッスン よりよい人生を送るために』は響きましたね。「本物の孤独と偽物の孤独はちがう」というようなことが書いてあって。
そんな時にたまたま入ったビデオ屋さんでゲイのビデオを見つけて、驚きながらも、自分の考えていることがわかる感じもありました。それまでは、そんな世界があることすらも知らなかったから。だけど、友だちには絶対見せられないし、部屋にも置けないし、だけど、そんな世界があるんだなって思いました。

MEME:わたしはキャシーさんと違って、学生時代は誰とも口をきかない生活でした。友だちづきあいが苦手で、遠距離通学だったから時間の余裕もなかったし、親もけっこううるさかったし、お金もなかったので勉強以外にやることといえば、本を読むくらいしかないという感じです。

図書館で借りるのがメインだったんですけど、当時はまだ仙台の街中に本屋がいっぱいあったんです。それで印象に残っているのが、仙台駅近くの本屋のレジのところに、ゲイ雑誌などのマニアックなエロ雑誌が置いてあったことです。いま思えば、万引き防止の意味もあったのかもしれないけれど、店の奥の方ではなく、レジのところにあって驚きました。さきほどのキャシーさんのビデオ屋の話と同じで、そうしたものを探しに行ったわけではないのに、出会ったのが大きくて、中学生くらいの時からこういう世界があるのは知ってはいたのですが、街の中の本屋で目に入ってくると、すごいインパクトがありましたね。
そこで何冊か買って、引き出しの奥に隠して、読んでいたのですが、こうした本を自分の暮らしている街の誰かも読んでいるというのが、すごいと思いました。なんていうか、ほんとうにこういう世界があるんだ、って思えて、自分の中で答え合わせをしている感じでしたね。巻末に販売店のリストが載っていて、まだインターネットがない時なので、どこに行けば買えるのかっていうのは、地方だと重要な情報でしたから、本屋さんのリストを見るだけでも価値がありましたね。あと文通欄を見ると、宮城の人も載っていて、こういう世界の存在が身近に感じられました。

そのお店にはレズビアンの雑誌はなかったので、ゲイの雑誌を買いました。というより、そもそもレズビアンの雑誌というもの自体、ゲイ雑誌に比べると非常に少ないというか、ほとんどなかったのですが。ゲイ雑誌は当時いろいろ出ていて、たとえば昭和の代表的なゲイ雑誌といえば『薔薇族』ですけど、わたしがその本屋で初めて買ったのは『サムソン』でした。表紙はやさしい雰囲気でしたが、中はなかなかハードでした。ただ、そうした雑誌に求められるものは、グラビアと出会いのための文通欄だったので、そうなると、やっぱりネットとの相性が良いので、いまはもう、当時本屋さんに並んでいたゲイ雑誌はどれも休刊や廃刊になってしまっています。

本って、ときどき不思議な出会いがあるというか、物理的なものが人から人に渡されていくというところにドラマが生まれることがあるように思います。さきほど話したゲイ雑誌や、町内会のバザーで買った『花とゆめ』もそうですし、別のバザーで、古本10円コーナーの山の中で古ぼけた『家畜人ヤプー』を見つけて、内容も分からないまま妙に惹かれて買って読んだらすっかりハマってしまったということもありました。捨てられていたエロマンガを拾って読んだらストーリーがすごく良くて、その作者のマンガを買い集めるようになったこともあります。

以前、セクマイ活動でフリーペーパーを作っていたのですが、Twitter(現X)を見ていたら、レズビアンとして生きた翻訳家のドキュメンタリー『百合子、ダスヴィダーニヤ』という本を東京の女子大生が古本屋で買ったら、「こんなフリーペーパーが挟まっていた」って、わたしがつくったフリーペーパーをTwitterに上げていたんです。とてもびっくりして、紙とネットのコラボみたいで、とてもうれしかったです。

キャシー:そういう、たまたま出会った本の影響が大きいというのは、自分もあります。大学を卒業して、就職もするのですが、精神と体のバランスが限界になってきていて、実家に戻ることになります。東京だけではなく、ほかのところに住んでいた時もあったのですが、やはり、実家というか、家のことが自分を追いかけてくるような感じがありました。その頃は自分がどういう人間かわかってもいて、だけどどうしたら良いかはわからなくていたんです。そんな時、家に置いてあった『家の光』という雑誌を読んだら、美輪明宏さんの人生相談コーナーが目に入ってきたんです。『家の光』は農家の人がよく読んでいるものなのですが、農家の奥さんの不倫相談とか載っていて、おもしろいんです。それで、思い切って、自分のことを相談しようと投書したんです。
そうしたら、取り上げてもらえて、しかも美輪さんにバッサリ切られるという(笑)。「あなたは江戸時代の人ですか。家を出て、自分の好きな人を見つけなさい」みたいなことが書いてあって、そうやって、誰かに言われたことがなかったので、とても響きましたね。そこから、美輪明宏にハマって、本はほとんど読んだと思います。

いろいろ悩んでしまう性格なので、いろいろな経験をした人の言葉が書いてある本を読むことが多いですね。福島智『ぼくの命は言葉とともにある』は素晴らしい本で、読んで盲ろう者の講座を受けて資格をとりました。
ほかにも『ぜんぶ、すてれば』『「そのままの自分」を生きてみる 』など、悩んでいる時に読むと、自分では解決できないことを導いてくれるような言葉が書いてあって、救われる感じがしました。

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MEME:わたしのライフスタイルはあまり変わっていなくて、マンガは買っていて、小説や実用書は図書館で借りることが多いです。部屋の本棚はマンガばかりです。というか、もはや本棚におさまる範囲をはるかに超えてしまっていて、ダンボール箱に詰めて積み上げています。さすがに、ある程度は処分するようにはしているのですが、手放すと読めなくなっちゃう。そして、なぜか手放してしまうと、読みたくなってしまう。10年、20年前に大ヒットしたマンガでも今ではもう入手困難だったりするので、そう考えるとやっぱりあまり売りたくないなあと思います。
いま住んでいるところは、図書館に近いので、子供の頃に読んだ本を読み返したいな、と思ったりすると、フラっと行けて、読めるのでいいんですよね。

キャシー:本を読むのは好きなのですが、いまの暮らしではスマホで映像を見ていることも多くなりました。そんな中で、活字から入ってくるものは、想像力を刺激するので、本屋や図書館に行って、自分のアンテナがキャッチするものを大切にしていきたいと思っています。

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